情報素材料理会<第90回> 

EMSが拓く未来

~筋肉を科学する~

 

講師:森谷 敏夫氏

京都大学名誉教授
京都産業大学・中京大学客員教授
NPO法人 NSCAジャパン参与
NPO法人 EBH推進協議会前理事長
 

 

講師:川出 周平

株式会社MTG企画開発本部
 

 

 

司会:菊池 夏樹 氏

高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友 日本文藝家協会会員
日本ペンクラブ会員 同クラブ企画事業委員
ディジタルアーカイブズ(株)取締役

MTG社が開発したEMS『SIXPAD』は、全世界での販売台数が100万台を越えるヒットとなっています。今回は、EMS研究における世界的な権威である森谷敏夫先生と、MTG社から川出周平氏をお招きして、筋肉のメカニズムとEMSの最新の研究成果をうかがいます。

 
【菊池】“京大の筋肉”こと森谷先生に、本日は「SIXPAD」の理論的な背景をうかがいたいと思います。
 
「ロコモ」予防のために
 
【森谷】「ロコモティブ・シンドローム」という言葉をお聞きになったことがおありだと思います。骨や関節の病気、筋力の低下等によって転倒・骨折しやすくなることで、自立した生活ができなくなり、介護が必要となる危険性が高い状態を指します。
 要介護になる原因は、男性の場合、「脳卒中」が、女性の場合、「認知症」が多数を占めますが、「骨折・転倒」と「関節の疾患」の二つの項目を足すと、全体の約四分の一を占める点は見逃せません。
 国民一人一人にかかる医療費は、七十代に入り、要介護になると爆発的に急増します。しっかりとした足腰と筋肉を維持して、「ロコモ」を予防することが、医療費の削減のためにも不可欠になってくるわけです。
 

 
最初に速筋が刺激される
 
 高齢者に限らず、運動したいとは思っても、時間がない、運動が苦手という方もいる。また、病気で寝たきりの人、体重が重くて膝や腰が痛むので、運動ができない人がいます。その人たちにどうやってトレーニングしてもらうか、が大きな課題になっています。
 筋肉は、脳から電気が流れて運動神経が興奮して動きます。ただし、脳が電流を流さなくても、皮膚の表面から電気を通してやって神経に電流が流れると、筋肉はあたかも、自分の脳が筋肉を興奮させているように勝手に動きます。
 体を鍛えて筋肉を強く大きくしたいという場合の筋肉は速筋といいます。持久力のある筋肉を遅筋といいます。通常、軽い運動とか歩行では遅筋が使われ、少し重いものを持ち上げたりすると、中間の速筋が一部、使われます。この辺の筋肉が、年とともに萎縮していくわけです。ですから、高齢の人の筋肉を以前のように甦らせようと思ったら、かなり重い負荷をかけた筋力トレーニングをしないと筋肉は大きくなりません。
 電気刺激が面白いのは、外から電流を流すと、最も鍛えにくい速筋が最初に刺激されるところです。強い大きな力を出す筋肉は神経が太い。その太い筋肉・太い神経は電流の流れる抵抗が少ない。だから、「SIXPAD」でピクピクやってるだけに見えて、おもりを持って、腹筋を鍛えるのと、同じ効果があるわけです。実際、血液中の乳酸値を比較すると、同じレベルで出ているのが確認できます。
 電気刺激を流すと、ぴりぴり痛みます。周波数を高くすると電流が流れやすいので、痛みが減る。でも、5000㎐や2500㎐では効果がありません。これまでの研究成果から、生理学上有意な基準値として、私は20㎐を見出して論文発表しました。痛みが出ないように刺激の波形を変える、ベルト電極にして抵抗を減らすといった、特許取得済みのノウハウを提供した成果がEMS(筋電気刺激)「SIXPAD」に反映されているんです。
 

 
医療現場でも研究データが
 
 身体活動の強さを示す単位「METs」を基準にとると、ウォーキングでは3METs程度なのに対して、EMSでは最大で10METs、安静時の十倍のエネルギーを使います。
 カロリー計算で言えば、20分間の少し強めの電気刺激で50㎉を消費します。一回20分の刺激を一日三回続けるだけで、理論的には一年間で7.6㎏分、脂肪を減らすことができます。
 医療の現場でも、EMSを使用した研究データが積み上がってきています。十字じん帯を断裂して、京大病院に入院している患者に、世界で初めて電気刺激装置を使用しました。十字じん帯の再建手術の二日後から電気刺激をします。そうすると、四週間で筋肉は有意に太くなります。通常のリハビリの場合、筋肉は萎縮し、三ヵ月たっても元に戻りませんが、電気刺激した方は三ヵ月後、入院前の筋肉よりも大きくなって退院します。
 糖尿病の患者さんに在宅用の電気刺激装置を作って自分たちでトレーニングをしてもらったケースでは、電気刺激を40分間、一日最低でも一回、週に5日。8週間後、脂肪が落ちて体重が減り、筋肉は増えました。高齢者の筋肉が増やせれば、転倒による怪我や骨折を防ぐことができたり、糖尿病の予防につながるかもしれません。
 筋肉が活動すると、脳のためにいろんな遺伝子が発現することが分かってきています。継続的にEMSを使えば認知機能をある程度維持できたり、改善できる可能性が高いわけです。
 
【菊池】森谷先生ありがとうございました。では、MTGの川出さん、引き続きよろしくお願いいたします。
 
エビデンスが基礎
 
【川出】株式会社MTGで、「SIXPAD」の開発を担当しております。
「SIXPAD」は2015年の7月7日に日本、アジアで発売しました。現在では、アジア、ヨーロッパを中心に世界展開もしています。
「SIXPAD」製品群には、独自開発のコア・テクノロジー“CMM pulse”が生かされています。トレーニングに効率的な周波数20㎐を見出した森谷先生の理論、独自波形によって低い周波数特有の痛みを解決したMTGの開発力、そして、世界一のサッカー選手、C・ロナウド氏のトレーニングメソッドという三者のシナジーによって、小さい負荷でも効果的な筋トレができる装置が誕生したのです。
 当社の開発方針は、積極的なエビデンスを得る点に特徴があります。京都大学、中京大学等の研究機関との共同プロジェクトを通じ、トレーニングやボディメイクに関する論文発表を重ねています。直近では、ヘルスケアの分野で、神奈川県葉山町に於いて、高齢者の介護予防を目的に、「SIXPAD」を継続して使用していただきながら、筋厚等のデータをモニターする実験も進んでいます。
 筋肉を鍛えれば、健康寿命が延びるということは科学的に実証されている―「SIXPAD」の普及を通じて、正しい知見を世の中に広く伝えていきたいと願っています。
 
 

編集後記にかえて  菊池夏樹
「うちの家系は、年をとってから腹が出てくるからなぁ」亡くなった父の言である。私もかなり腹が出てきた。健診の結果表には「部位の移動の疑い有り」と書かれた程だ。部位? 私は、牛や豚と違う!と抵抗する気持ちはあったが、それから気になりだした。しかし、歳が歳だけに烈しい腹筋運動は出来ない。下手をすれば他の筋肉や骨を壊す恐れがあるからだ。内臓周りに溜る脂肪は、高年齢になると取りにくい。楽に腹筋を作れる方法か…