坂根 直樹

(さかね なおき)
京都医療センター
臨床研究センター
予防医学研究室室長

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メタボになりやすい体質はあるのか?
 肥満とは、運動などで消費されたエネルギーよりも、食べた摂取エネルギーが上回った場合に、余分となったエネルギーが脂肪に異常にたまった状態のことです。
 ところが、同じように肥満であっても血糖値が上がる人もいれば、上がらない人もいます。中には、「太っているけど健康診断の結果は大丈夫」と言う人がいます。その違いは何なのでしょうか? その違いのひとつに「内臓脂肪の蓄積」があります。同じように食べ過ぎていても、内臓脂肪がたまりやすい人もいれば、皮下脂肪がたまりやすい人もいます。この内臓脂肪の蓄積には体質が関係しています。
 一方、内臓脂肪の蓄積はそれほどでなく、血糖などの代謝に異常がない肥満の人もいます。この人たちのことは「代謝に異常がない肥満」と呼ばれています。健康診断の血液検査では、血糖や脂質には異常がないので、「自分が大丈夫」と安心している人もいます。しかし、体重が重いと膝痛などの整形外科疾患や睡眠時無呼吸などになるリスクが高まります。血液検査の結果が正常範囲にあっても、整形外科的疾患などの健康障がいは起こりやすいので、適正な体重管理は必要なようですね。
 
個別化医療とメタボへの応用
 健康食品のチラシなどには、「個人の感想です。効果には個人差があります。」などの打消し表示があります。この個人差は何で決まっているのでしょうか。医薬品については薬剤を代謝する遺伝子のタイプによって、薬が効きやすい人と効きにくい人がいることがわかってきました。
 最近、がん患者さんを中心に「個別化医療」が始まっています。これは遺伝子解析などを用いて患者さんの体質に合わせた最適な治療法を提供する医療です。そのために、通常の臨床検査とは別に「コンパニオン診断」が行われます。このコンパニオン診断というのは、医薬品を投薬する前に、医薬品の効果や副作用を予測することのできる検査です。この検査を行うことで、がん患者さんは自分の体質にあった医薬品を選ぶことができます。
 それでは、メタボにもこの個別化医療を応用することはできるのでしょうか。メタボを予防するには、食事療法による内臓脂肪の減少が鍵となります。どのくらい食事量を減らしたらいいのか、何を減らしたらいいのか、いつの食事を減らしたらよいのかには個人差がありそうです。
 
 将来的には、血液検査などで体質を的確に判定することができるようになるかもしれませんが、今の段階では自分の体重や腹囲を測定しながら食事や運動の内容を工夫して、その効果を比較してみるのがよいでしょう。是非、下の表も参考にして試してみてください。
 

 
 

2021年1月号より


 
 日本人の食生活は第二次世界大戦後、大きく変化してきました。1950年と比べ、現代は1日当たりの米の消費量はほぼ半減し、肉類など動物性たんぱく質の摂取量は2倍、脂質の摂取量は3倍となっています。
 そこで、いつの年代の食事がもっとも健康によいのか、1960年、1975年、1990年、2005年の和食の餌を作り、マウスに食べさせた実験が都築毅博士らのグループ(東北大学)により行われました。
 その結果、1975年の和食メニューが最も内臓脂肪の蓄積が少なかったのです。
 
 1960年の食事の特徴は、ご飯の量が多い割にはおかずが少ないことです。この時代は食品の流通も不十分で今のように冷蔵庫が家庭にありませんでした。そのため、どうしても漬物などの塩蔵品が多い傾向にありました。
 
 1975年になると、食品の流通が進んで、多様な食材が使えるようになってきました。日本の伝統的な食材の魚介類・海藻類・大豆製品に加えて、野菜・果物・卵も1年を通じて手に入るようになりました。肉じゃが、おひたし、酢の物などのメニューに加え、オムレツやシチューなどの料理も食べるという、バランスの良い和洋折衷の食事となりました。
 
 ところが、1990年代に入ると、欧米の影響を受けすぎ、伝統的な和食の良さが少しずつ失われてきました。副菜は肉料理が中心となり、魚料理がだんだん少なくなってきました。外食産業が発達するに従い、動物性食品の摂取が多くなっています。それに対して、野菜の摂取量が格段に少なくなってきました。
 
 2005年になると、食事の炭水化物量が少なくなり、肉類や油脂類の摂取量が多くなり、魚介類はあまり食べなくなりました。単身赴任などで単身者が増え、おかずの少ない丼ものなどの単品メニューもよく食べられるようになってきました。
 
 このようにして比較してみると、内臓脂肪を減らす食事は1975年が理想といえます。そして、そのメカニズムとして、内臓脂肪蓄積と関連するGIPという消化管ホルモンにかかっていることも明らかとなってきました。
 このホルモンを過剰に分泌させないためには、次の3つのポイントがあります。
 
1.脂質を減らしてたんぱく質を増やす
2.糖質をとるなら食物繊維をたっぷりととる
3.魚をよく食べる
 
 このように、健康的な和食の特徴を上手く取り入れて、内臓脂肪を減らす食事を工夫したいものですね。

 
 

2020年11月号より

 生活リズムが狂うと、体調不良、労働生産性の低下だけでなく、高血圧・糖尿病・脂質異常などの生活習慣病にもなりやすくなります。ところが、厚生労働省の国民健康・栄養調査(平成27年)の報告によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人は男性37.4%、女性41.2%、5時間未満の人は男性8%、女性8.7%にのぼります。6時間未満の人は、日中に眠気を感じている人が半数近くにもなっています。平日は仕事で帰宅が遅くなり、夜遅い食事が続いていて、土日は9時間以上寝ている場合には「睡眠負債」が疑われます。帰りが遅くなると、空腹感から一気にたくさん食べて、風呂にも入らず、そのまま寝落ちしてしまうことさえあります。近年、睡眠不足が肥満になるメカニズムもだんだんわかってきました。健康な人でも、強制的に睡眠不足にすると、満腹ホルモンであるレプチンが減って、摂食ホルモンであるグレリンが増え、食欲が出る太りやすいホルモン環境になります。興味深いことに、睡眠不足になると甘いものや塩辛いものが食べたくなります。その結果、肥満や高血圧が助長されるのです。

 
 睡眠時間の確保のために、前出の国民健康・栄養調査で20~50歳代の男性では「仕事を早めに終わらせる」(就労時間の短縮)、20歳代の女性では「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中しない」、40歳代の女性では「家事のサポート」、60歳以上の男女では「健康状態の改善」が最も必要と報告されています。中には、ベッドにいる時間は長いけれど、睡眠の質が悪い人がいます。アルコールを飲みすぎている人は、睡眠が浅く、熟眠感が少なく、朝の目覚めが悪い傾向があります。これはアルコールが分解される際にできる毒性の強いアセトアルデヒドが、深い眠り(レム睡眠)を妨げるためと考えられています。休肝日を作ることで、朝の目覚めがよくなることは多量飲酒者ではよく経験されます。
 
 毎年、受ける健康診断の問診項目のひとつに、「睡眠で休養が十分にとれていますか?」という質問があります。その質問に「いいえ」と答えた人は、テレビを見ながら床につかない、休みの日も同じ時刻に起きる、寝る前にスマホをいじらない、節酒など生活リズムの改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。
 
 

2019年8月号より

 インフルエンザは、38℃以上の発熱、頭痛、ふしぶしが痛い(関節痛、筋肉痛)などの症状が突然現れるウイルス感染です。普通の風邪と同じように、のどの痛み、鼻汁、咳などの症状もみられることもあります。インフルエンザは、流行期間中に前述の様な経過の症状などを元に診断されますが、咽頭のインフルエンザ濾胞(ろほう:体組織、特に内分泌腺の組織でできた袋状の構造物。中に分泌物がたまる)も参考となります。典型的なインフルエンザは潜伏期間が1~3日間ほどで、約1週間以内に軽快します。高齢者は2次的に細菌による肺炎や気管支炎を併発することもあります。子どもでは中耳炎や気管支喘息を併発することもあります。以前は、インフルエンザは発症してから12時間以上たたないと、十分なウイルス量がないために判定ができないとされていましたが、今では3時間程度で判定できる迅速診断キットも出てきました。以上の様に、インフルエンザの診断は、検査だけでなく発症様式、症状などから総合的に行われます。
 学校保健安全法では、インフルエンザ感染の拡大を予防するために、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」が出席停止期間と原則的に定められています。これらの経過を知って、家族で対処する必要があります。
 
 インフルエンザの予防には、流行前の予防接種が有効です。「インフルエンザワクチンを受けたのにインフルエンザにかかった」と嘆く人がいますが、ワクチンによるインフルエンザの予防接種の意義は、発症予防だけでなく、重症化予防にあります。さらに、高齢者がワクチンを接種すると、肺炎やインフルエンザによる入院が27%、死亡によるリスクが48%減少するとの報告もあります。
 生活習慣病との関係で言えば、糖尿病の人はインフルエンザにかかるリスクが高いことが知られています。特に血糖コントロールが悪いと免疫機能が低下して、重症化しやすくなっています。カナダにおける調査によると、インフルエンザで入院する危険性は、糖尿病でない人よりも6%高かったとも報告されています。
 
 ところが、ワクチンの国内での接種率は、全体で38.6%(小児で59.2%、一般成人で28.6%、高齢者で58.5%)にすぎません。
 インフルエンザにかからないためには、流行前のワクチン接種に加え、咳エチケット、外出後の手洗い、適度な湿度(50~60%)の部屋環境、抵抗力をつける(良い睡眠、バランスのとれた食生活、適度な運動、血糖コントロールなど)、むやみな外出(人混みや繁華街)を控えること等を心がけておくといいですね。咳やくしゃみをする際に、何もしないのはもちろんいけませんが、手で抑えたりしてもいけません。マスクを着用し、ティシュで口や鼻を覆って、すぐにゴミ箱に捨てましょう。そして、インフルエンザになったら無理をせずに休むことが大切です。
 
 

2019年2月号より

 嘔吐(おうと)、水様の下痢、腹痛などの感染性胃腸炎の原因となる「ノロウイルス」。日本における食中毒の原因物質の第1位です。(厚生労働省:平成28年食中毒発生状況より。354事件、患者数11397名)

 「ノロウイルス」の名前の由来は、1968年に小学校で胃腸炎が集団発生したオハイオ州のノーウォーク(Norwalk)という町の名前から。
 米国疾病対策センター(CDC)の報告によると、米国の人は生涯で平均して5回のノロウイルスに感染、米国全体の2人に1人が外来を受診、9人に1人が救急外来を受診、50~70人に1人が入院、年間5000~7000人が残念ながら死亡すると推定されています。日本の場合、人口動態統計(平成26年)によると、年間2405人の方がノロウイルスなど感染性胃腸炎で亡くなっています。
 ノロウイルスの多くは軽症で経過しますが、中には前述のとおり重症化する症例があります。

 ノロウイルスの潜伏期間は24~48時間で、嘔吐、下痢、腹痛など(発熱は軽度)の症状が1~2日続いた後、軽快します。また、感染しても発症しない場合もあります。
医療機関では、診断のために、便の中のノロウイルスについて検査キットを用いて検査をする場合があります。ただし、健康保険が適用されるのは年齢が3歳未満、あるいは65歳以上で医師が医学的に必要と判断した場合に限られます。

 現在のところ、ノロウイルスに対する抗ウイルス剤はありません。そのため、脱水や体力を消耗しないように、水分と栄養の補給が治療として行われます。脱水症状がひどい場合には輸液療法が医療機関で行われます。下痢止めの薬は、病気の回復を遅らせる可能性があり、あまり使われません。

 現在、ノロウイルスに対するワクチン開発が進んでいますが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎を予防するには、帰宅時や調理を行う前、食前、あるいはトイレに行った後にきちんと手洗いすることや、しっかりと加熱して食べることです。キッチンや調理器具の消毒、手や食器だけでなくドアノブなど頻繁に手で触れるものを清潔に保つようにしておくよう心がけましょう。そして、何よりも大切なのは、普段から運動や充分な睡眠を心がけ、抵抗力をつけておくことですね。
 
 
2019年1月号より

 歓送迎会や宴会のシーズンになると、アルコールを飲む量が増えますね。「とりあえず、ビールで乾杯!」と注文する人も多いかもしれません。
 外来診療時に「ビールを飲むならどんな種類がよいですか?」という質問を患者さんからよく受けます。それに対して「ふだんはどんなビールを飲んでいますか?」「それを選んだポイントは何ですか?」と尋ねています。そうすると、尿酸値が気になる人は「プリン体カットのビールを飲んでいる」、血糖値が気になる人は「糖質ゼロのビールを飲んでいる」との答えが返ってきたりします。中には経済的な面から「発泡酒にしている」などと答える人もいます。

 それでは、健康に気をつけるのであれば、どのようなビールを飲めばよいのでしょう。
 たとえば、高級ビール(普通ビール〈通常の商品〉に対して、より高品質で嗜好性が強いもの)は普通ビールやプリン体カットビールに比べて、プリン体の量が格段に多くあります。また、糖質ゼロビールには糖質は含まれていませんが、当然アルコールは入っています。
(※各社商品によって成分比が異なります。)
 尿酸値が気になる人は高級ビールを控えたほうがよいでしょう。また、血糖値が気になる人は糖質ゼロビールを選ぶとよいでしょう。しかし、もっと注目したいのはアルコールの量です。

 厚生労働省が示す指標では、節度ある適度な飲酒は、1日平均純アルコール量で20g程度。ビールの量では500㎖となります。純アルコール量が60gを超えると「多量飲酒」となり、将来、糖尿病になるリスクが高まります。
 一番美味しいのは「最初の1杯」。2杯、3杯となると、感動がだんだん少なくなる(限界効用逓減〈ていげん〉の法則)ので、1~2杯で飲み終わるようにするとよいでしょう。とはいえ、惰性で飲んでしまうこともありますね。そんなときはチェイサーとして、炭酸水を用意して飲むと節酒ができるかもしれません。みなさんも試してみてはいかがでしょう。
 
 
2018年12月号より

 日本では、人が一生涯でがんになる確率は、男性が62%、女性が46%で、男性では40歳以上になると消化器系のがん(胃がん、大腸がん、肝臓がん)になりやすく、70歳以上になると肺がんと前立腺がんになる人が多くなります。それに対して、女性は40歳代では乳がんや子宮がんになりやすいのですが、70歳以上になると消化器系のがん(大腸がん、胃がん、肝臓がん)の割合が増加します。がんの罹患数で見ると、男性は胃がん、女性は乳がんが第1位ですが、男女計の場合、胃がんが第1位です。(「地域がん登録全国集計(2013年)」による)

 胃がんは、胃袋の内側にある粘膜にできるがんで、徐々に外側に浸潤(しんじゅん/水が染みるようにじわじわと広がっていくこと)していきます。粘膜の下までにとどまっているのを早期胃がん、粘膜の下の筋肉より深く浸潤したのを進行胃がんといいます。早期胃がんのうちに治療できると根治となりますが、進行すると治療がだんだん難しくなってきます。早期発見・早期治療が大切といわれる所以です。

 早期に胃がんを見つける胃がん検診としては胃X線検査、胃内視鏡検査、ペプシノゲン検査、ヘリコバクターピロリ抗体検査があります。
 胃がんのリスクとして、確実な要因となるのが喫煙とピロリ菌です。ピロリ菌は胃の粘膜にすみつく、らせん形の細菌です。ピロリ菌を発見したのはオーストラリアのマーシャル医師。彼は自分でピロリ菌を飲み、胃炎になることを証明しました。ピロリ菌は、母から子に感染すると考えられていて、衛生状態の悪い国では予防のために母乳や食物を与える前に手を洗うことが予防につながることが期待されています。
 日本のピロリ菌の感染率は1910年から1940年代までは60%を超えていましたが、1998年以降の感染率は10%と低下しており、日本での胃がん死亡率低下の主な要因と考えられています。現在は、ピロリ菌の除菌治療も、胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗菌薬を1週間飲むことで簡単に行えます。
 食事の面では塩辛いものを控えて、野菜や果物を適切にとったり、緑茶を飲む習慣をつけたりすることなどで胃がんの予防につながりそうです。
 
 
2018年8月号より



平均睡眠時間は?
 年齢とともに平均睡眠時間は短くなってきます。25歳で7時間、45歳で6時間30分、65歳で6時間というのが平均的なようです。
 しかし、個人差があることも知られています。
 発明王エジソンは睡眠時間が短く(ショートスリーパー)、アインシュタインの睡眠時間は長かったとか(ロングスリーパー)。
 あなたの平均睡眠時間はどのくらい?
 
睡眠不足と食欲
 ちなみに5時間未満の睡眠不足になると、満腹ホルモンであるレプチン(脂肪細胞から分泌される)は減少し、食欲増進ホルモンであるグレリン(胃から分泌される)が増加して、異常に食欲がわいてきます。
 特に、甘いものや炭水化物、ナッツなど塩辛いものが食べたくなる傾向があるのだそうです。
 食欲をコントロールするためには、睡眠不足の解消が先決かもしれませんね。
 
睡眠不足と食欲
 とはいえ、必ずしも長い時間…8時間睡眠しなければならないというわけではないようです。
 たとえば、仕事をしていた頃はぐっすり眠れていたのに、定年後に「よく眠れない」と不眠を訴える人がいます。今まで6時間睡眠の人の場合、生活が自由になったからと午後10時に寝て午前7時に起きる9時間睡眠に変えると眠れなくなります。
 なぜなら、睡眠が浅くなったり、途中で起きたりするから、眠れないと感じるわけです。つまり、不眠症の原因は「寝過ぎ」だったのです。

 あなたの睡眠時間は、あなたの生活リズムに合っていますか?
 
 
2018年7月号より

アルコールを
飲まないのに脂肪肝!?

 
 健康診断の検査結果で、アルコールを飲まないのに肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP)が異常値を示している場合があります。
 脂肪肝とは、肝臓に脂肪が異常に蓄積した状態です。脂肪肝の原因として、アルコール以外に、過栄養があります。後者を「非アルコール性脂肪肝」と言います。以前は、「脂肪肝は良性なので放っておいてもよい」と言われていたのですが、最近の研究では、この非アルコール性脂肪肝の自然経過をみると、5~15年の間に脂肪肝の0~40%が脂肪性肝炎に進展し、脂肪性肝炎の5~20%が肝硬変となり、肝硬変の0~15%に肝がんの発症がみられるそうです。さらに、非アルコール性脂肪肝の人は糖尿病にもなりやすいことがわかっています。どうも「脂肪肝は良性なので…」というのは俗説だったようです。
 日本国内の1000万人以上が非アルコール性の脂肪肝、100万人以上が脂肪肝炎に罹患しているのではないかと推定されています。実に驚くべき数字ですね。
 
2018年1月号より

動脈硬化にならないために

 
「動脈硬化」とは文字通り動脈が硬くなることです。では、どういうメカニズムで動脈硬化になるのでしょうか?
 高血圧や糖尿病になると、血管の内側に傷がつきます。そこに血液中のコレステロールが酸化されたものが血管の中にたまり、プラーク(粥腫)ができます。これができると、血管の内径が細くなり、動脈が硬くなることで血液の流れが悪くなります。さらに、血のかたまり(血栓)ができると、血流が完全に途絶えて心筋梗塞や脳梗塞が起こってしまいます。
 動脈硬化が進むと、心筋梗塞など冠動脈疾患になるリスクが高まります。年齢が高い、現在喫煙している、糖尿病である、血圧が高い、悪玉(LDL)コレステロール値が高い、善玉(HDL)コレステロール値が低い、腎機能が低下している人は冠動脈疾患になるリスクが高いことが知られています。検査値の意味をよく知って、血圧、血糖、脂質を管理するとともに、健康的な生活習慣(禁煙、健康的な食事、運動)を心がけましょう。
 
2017年12月号より

世界糖尿病デー

 
 11月14日は「世界糖尿病デー」。1921年に血糖を調節するインスリンというホルモンを発見したバンティング博士の誕生日です。
 それまで糖尿病は不治の病とされ、極端な糖質制限を強いられてきました(不治の病の時代)が、インスリン発見により薬で治療できる時代となりました(糖尿病による昏睡克服の時代)。1922年に世界初のインスリンが患者に投与され、1923年にバンティング博士はノーベル賞を受賞しました。1993年に行われた介入研究では、糖尿病の三大合併症(神経障がい、眼、腎臓の障がい)が厳格な血糖管理で抑制されることがわかりました(糖尿病合併症克服の時代)。
 国民健康・栄養調査(2016年)によると、糖尿病が疑われる人は12.1%(男性16.3%、女性9.3%)で、日本全体では1000万人を超えるとも。糖尿病は心血管疾患や認知症のリスクも高めるため、現在は、健康寿命を延伸させるのが糖尿病予防の目的となりました。
 予防のキーワードは、運動、減量、野菜摂取、節酒。これを機に生活習慣を見直してみませんか?
 
2017年11月号より

高尿酸血症とアルコール

 
 尿酸とは、細胞の核などに含まれているプリン体という物質が肝臓で分解されてできる老廃物で、これが結晶化する濃度が7.0㎎/dl。そのため、痛風や腎障がいの原因となる高尿酸血症の定義は、血清尿酸値が7.0㎎/dl以上となっています。
 アルコールは生ビール1杯程度なら、焼酎やウィスキーなどプリン体の少ないアルコール飲料に変えることで尿酸値の上昇を抑えることが期待されます。ところが、焼酎も3杯を超えるとアルコール自体が悪さをして尿酸値を高くします。痛風発作はアルコール摂取量に比例します。そして、たまの激しい運動も尿酸値を上げますが、適度な運動を行っている人は痛風になりにくいとされています。ということは、プリン体制限にばかりでなく、体重コントロールや節酒、運動に注目する必要があるようです。
 ちなみに、デザートの「プリン」(Pudding)と「プリン体」(Purine)は英語の綴りも違い、別物になります。
 
2017年10月号より

脳卒中が起こったら

 
 寝たきりなど介護が必要となる原因の第1位が脳卒中(脳血管疾患)。脳卒中は、脳の血管がつまる脳梗塞と、脳の血管が破れて出血する脳出血や、くも膜下出血に分けられます。厚生労働省の患者調査(平成26年)によると、脳卒中の患者数は117万9000人。亡くなる人は年間11万人ほどになります。
 それでは、脳卒中の発作が起きた時にはどうしたらよいでしょうか? 片麻痺や言語障がいなどの症状を伴う脳梗塞が起きた際には血栓溶解療法が用いられます。その勝負タイムは、発作が起こってから4・5時間以内。迅速に治療を受けることで社会復帰できる可能性が高まります。
 脳卒中のチェック方法は「顔・腕・言葉」。次の項目のいずれかが当てはまる場合、症状が出てきた時間を確認して救急車を呼び、医療機関に受診するようにしましょう。
 
・顔……笑った時、
    口や顔の片方がゆがまないか
・腕……両手を上げて、
    片方の手が下がっていないか
・言葉…簡単な言葉が出ない、
    もつれるなどしていないか
 
2017年9月号より

熱中症と「暑さ指数」

 
 暑い日が続くと、熱中症が気になりますね。
 熱中症は身体の水分や塩分のバランスが崩れ、体温が上昇することにより起こります。熱中症は気温だけでなく、湿度や輻射熱(ふくしゃねつ…地面や建物・体から出る赤外線により伝わる熱)などの影響を受けます。運動により体温は上昇しますが、汗をかくことで気化熱により体温は低下します。しかし、湿度が高くなると最初は汗をかくものの、湿度の高い状態のままだと汗は気化しにくくなり、発汗が抑えられてしまいます。また、高温の道路の上では体感温度がとても高くなりますが、打ち水をして高温になった道路の熱を下げることで輻射熱は下がり、体感温度も下がります。
 このように、気温に加え、湿度と輻射熱の効果を加味したのが「暑さ指数」(湿球黒球温度(WBGT))です。
 環境庁の熱中症予防情報サイトでは「暑さ指数」について実況と予測を掲載しています。参考になさってはいかがでしょう。
 
http://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_data.php
 
2017年8月号より

夏バテ対策と土用丑の日

 
 そろそろ夏バテが気になる季節。夏バテ対策に「土用丑(うし)の日に鰻でも食べなきゃ」と思っている人がいるかもしれません。今年(2017年)の土用丑の日は7月25日の火曜日と8月6日の日曜日。スーパーでも鰻料理が並びます。
 さて、いつ頃から土用丑の日に鰻を食べるのが習慣となったのでしょうか。答えは江戸時代。実は、鰻の旬は冬で、その当時、夏には暑さのために鰻があまり売れなかったそうです。ところが、ある鰻屋が「本日丑の日」との張り紙を書いて店先に貼ったところ、大繁盛。このキャッチコピーを思いついたのが平賀源内で、ヨーロッパ製の歩数計を改良した「量程器」も作っています。
 一昔前は暑さによる食欲低下が夏バテの主な原因でしたが、最近の夏バテは冷房のきいた部屋と外気温の差で体温調整が困難になるのが原因になることも。読者の皆さんも、体温調節機能を高めるために、歩数計をつけて涼しい時間帯に歩いてみては、いかが。
 
2017年7月号より

梅雨になると食欲が増すの!?

 
 先日、ある患者さんから「梅雨になると食欲が出るんですか?」と尋ねられました。かびが生えやすい梅雨時は、蒸し暑くて体調を崩し、食欲が出ない人が多いと感じていましたが、これはどういうことでしょうか。
 その発端となったのはあるバラエティ番組。ホームページを見ると「梅雨の時期は体調を崩し、ストレスがたまりやすい。そのため、満腹ホルモンであるレプチン分泌が低下し、食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌が増加するので、ダイエットに失敗しやすい」とのこと。確かに、睡眠不足になるとそのような現象が起きることはわかっていますが、梅雨とは関係ありません。さらに、その番組では、「朝日を浴びることで基礎代謝が上がり、太りにくい体になる」と対策まで紹介。紫外線でビタミンDの合成を促進させるとレプチンが減る、と誰かがコメントしたようです。残念ながら、エビデンスレベルはかなり低いので、注意して視聴してくださいね。
 
2017年6月号より

病は気から - 糖尿病編

 
 「病は気から」とは、病気は気の持ちようで良くも悪くもなるという意味ですが、糖尿病にも当てはまるでしょうか。興味深い実験結果があります。昼食後に、つまらない糖尿病の講義を聞いた時に比べ、笑える漫才を聞いた方が食後血糖値は低かったのです。思いきり笑うのは散歩程度のエネルギー消費があり、それが値を改善させたのです。また、笑いは免疫力を高めることが遺伝子レベルでもわかっています。
 糖尿病の人の気持ちも様々です。糖尿病に対し前向きな人は、健康的な食事を選び、少しでも体を動かそうとします。たまに食べ過ぎても、翌日食事量を調節して体重や血糖値が増えないよう考えます。さらに、失敗からの回復力(レジリエンス)もあるそうです。一方、後ろ向きの人は、落ち込んだ後に自分はダメな人間と考え自堕落になりがち。もちろん、心理的ストレスは発症リスクを増加させます。
 どうやら、「病は気から」は糖尿病でも当てはまりそうです。
 
2017年5月号より