情報素材料理会<第122回> 

筋電メディカルは
オンラインジムへ



講師:熊崎 嘉月

㈱MTG WELLNESSブランド本部
SIXPAD部 部長
 

聞き手:森谷 敏夫

京都大学名誉教授
京都産業大学、中京大学客員教授
株式会社 おせっかい倶楽部 代表取締役

EMS(筋電気刺激)装置は250年余りの研究史があるとされますが、近年は家庭への普及が進んできました。さらにEMSは、筋電メディカルの中核技術として、近未来の運動習慣を一変しようとしています。
㈱MTG WELLNESSブランド本部 SIXPAD部 部長の熊崎嘉月様に最新事情をプレゼンテーションしていただきました。

 
 サッカーのクリスティアーノ・ロナウド選手のCMでおなじみかと存じますが、EMS技術をトレーニング・ギアに応用した「SIXPAD」シリーズのブランド責任者をしております、熊崎です。


250万台を突破
 「SIXPAD」は、2015年7月、2つの機種の発売で始まりました。まだアナログな技術で、ボタン電池で動く仕組みでした。そこから2年後、インターネットへの接続とアプリへの対応でIoT化、トレーニングできる部位もお腹の腹直筋だけではなく、上腕二頭筋や三頭筋、大腿四頭筋、ハムストリングといった部位へ、商品の幅を広げました。
 トップアスリートをモデルにしたトレーニングやスポーツの領域から、ヘルスケア・メディカルの領域へと成長戦略を描く道のりで、2018年10月に発売した「Foot Fit」はひとつの転機になりました。80歳でエベレスト登頂に成功された三浦雄一郎さんが実際に使っていらっしゃるという評判も手伝って、「Foot Fit」のご愛用者は、平均年齢でいくと70歳から75歳がメインのご利用ゾーンとなっていて、運動不足を意識される高齢者の方々に支持していただいております。
 
 
 2019年からは、ジムの運営にも乗り出し、「第2章」が幕を開けました。2020年には、EMSシリーズの累計販売台数が250万台(※)を超えたというのが現状です。
 「日本発、世界ナンバー1 EMSブランド」を目指して、世界中の人々が健やかに生活できる社会に貢献する、という大きな目標を抱いています。
※2015年5月〜2020年11月 SIXPAD EMSシリーズ累計出荷台数

 

エビデンスを基に
 振り返ってみますと、EMSの開発を検討しはじめたのは8年前。当時、弊社の創業者で社長の松下剛は社内に「本物であること」をミッションとして厳命しました。EMSをやるなら、エビデンスが必要不可欠だ、という主旨でした。
 当時、健康機器や美容機器のメーカーだった弊社は、一般社団法人の日本ホームヘルス機器協会に加盟し、ご家庭で使う機器の安全性の業界基準の統一、および、宣伝広告のガイドライン作りを経済産業省や厚生労働省に働きかけていました。背景にあったのは、EMS機器のちょっとしたブームでした。輸入商品を中心に「巻くだけで痩せる」「脂肪が燃焼する」等、根拠のない誇大広告が多く流れ、国民生活センターに苦情が寄せられました。
 こうした逆風下で、市場に参入すべきか、社内でも議論があった中で、開発チームが出会ったのが、当時、京都大学大学院にいらした森谷敏夫先生でした。先生が国際的な学会誌に発表されてきたEMS関連の数多くの論文にはエビデンスがあった。まさしく本物でした。森谷先生から、「エビデンスに基づいて開発しなさい。エビデンスが取れたら、学会に発表する。できれば、査読付きの国際論文にしないと、グローバルでは通用しない」と厳しくご指導をいただき、ようやく商品化にこぎつけ、今日があります。例をあげると、「SIXPAD」を使用してデータを取得した公的機関は、10の大学、5つの病院、3つの市町村を数え、今日までに取得したエビデンスは230項目に及びます。

オンラインが急拡大
 2020年10月20日に、オンライン形式でフィットネス・トレーニングを提供する「SIXPAD HOME GYM」のサービスを始めました。コロナ禍で、ジムに通えなくなった人のニーズをあてこんだように見えるかもしれませんが、実情は異なります。ひとつには、世界的に見た場合、オンラインジムの需要の高まりがあり、弊社のトレーニング・ギアの進化が運動の未来を変えうる、という読みがあり、3年余りをかけて、開発を続けてきました。
 機器の販売ではなく、フィットネスという市場を見渡しますと、全世界で10兆円、8億人のマーケットがあるといわれています。最も市場規模の大きいアメリカでは3兆2300億円、2位がドイツ、3位がイギリス、4位が中国で、第5位の日本はおよそ4000億円。今から40年前、日本ではフィットネスクラブがオープンしたとされますが、会員制で、ジムやプールの設備を持つ〝箱型〟の総合ジムから、〝箱〟を持たないオンライン型へ市場は大きく変わろうとしています。アメリカでは、ペロトンという新興企業が、実店舗が3つしかないのに、オンラインの会員数360万人を擁し、フィットネス市場で第2位まで業容を急拡大しています。ある研究機関のリサーチによると、オンライン・フィットネスは、2026年までに、現在3000億円のマーケットが約10倍、3兆円まで膨らむんじゃないかと、予測されています。

筋トレ+有酸素運動
 「SIXPAD HOME GYM」をざっとご紹介いたしましょう。
 全身に電極を配したEMSトレーニングスーツ「パワースーツ」を着ていただきます。その電気刺激で筋トレをしながら、「ザ・バイク」による有酸素運動を組み合わせ、より効率的なトレーニングを行っていただき、「アプリ」で運動をサポートする、というサービスで作られています。
 
 
 筋トレと有酸素運動が同時にできるという、「ハイブリッドトレーニング」というコンセプトは、森谷先生の研究にヒントをいただきました。バイクを漕ぎながら、同時にEMSを使用すると、乳酸値が通常の有酸素運動よりも何倍かに上がる。酸素消費量もしっかりと上がるという研究論文がありました。そこに着目しました。
「筋トレ+有酸素運動、最短10分で効率的、オンラインでつながる、だから続けられる」がメインのキャッチコピーです。
 通常、有酸素運動のジョギングをしながら、腕立て伏せや、腹筋、スクワットなどの筋肉トレーニングを同時にはできません。ですが「SIXPAD HOME GYM」はそれを可能にします。
 ポイントは、筋肉に流す電気の周波数の切り替えにあります。EMSを使った筋肥大においては、森谷先生が実証された20㎐が効率的で、「SIXPAD」もそれを採用しています。「パワースーツ」は、全身で7つの部位、14箇所を効率的に、同時に鍛えるよう電極が配置されていて、腕や足の筋肉も、腹筋も、一度の動作で、同時に鍛えることができます。こうした筋トレには、20㎐が適しています。一方、このパワースーツは、EMSの周波数を使い分けることができ、20㎐はもちろん、有酸素に適した4㎐にも切り替え可能です。この有酸素運動でカロリー消費を促し、身体の代謝率を高められれば、美容やダイエットの効果も期待できます。

競争で伸びる
 開発にあたっては、もちろん、エビデンスを取得しております。たった10分の運動でも、EMSとバイク漕ぎを組み合わせると、汗がだらだら出ます。実際に、血中の乳酸値を計測してみても、最大で約25%増加していますし、酸素の消費量も最大で約17%増えています。体に負荷がかかっているのは明らかです。
 
 
「アプリ」に関して言えば、これまでのジムのインストラクターに対し、新たに「ウェイバー」と名づけて、人員を養成しました。個人のトレーニングを導く指南役ですが、人気を競う立場でもあります。利用者も「ウェイバー」も競争を通じて伸びる、そこにエンターテインメント的な要素を組み合わせています。
 リモートワークで在宅勤務が増えている会社員の方、育児と家事でジムに行く時間の取れない主婦の方など、すでに手ごたえを感じています。今後は、スポーツ方面と同時に、高齢者が手軽に運動できるようなシステム作りも視野に入れていこうと考えています。
2020年11月16日 東京で開催

 

編集後記にかえて
菊池夏樹
高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友

 
森谷敏夫先生の筋電メディカルの研究結果から生み出されたパワースーツとザ・バイクが、そこにはあった!タタミ一畳あれば、部屋にカッコいいバイクが置ける。電極の配置されたパワースーツも今までのようなジェルは、必要ない。バイクは、専用タブレットがセットされ、インストラクターと交信が出来る。インストラクターも自分の動きを見てアドバイスを送ってくる。画面で1対1のレッスンが出来るのだ!まるで、自分の部屋がジムに変貌したようだ。