情報素材料理会<第121回> 

サプリってなんだ?



講師:森谷 敏夫

京都大学名誉教授
京都産業大学、中京大学客員教授
株式会社 おせっかい倶楽部 代表取締役
 


講師:西嶋 泰史

有限会社ウエスタリー代表
 


講師:田中 齊太郎

㈱タナカバナナ代表
 


講師:工藤 泰正

スマートスターチ㈱代表

今は具体的に病気を患っているわけじゃないけど、将来を考えると……健康食品に分類されるサプリメントは、こうしたニーズをとらえ、まさに百花繚乱、多種多様な商品が市販されています。サプリ開発の最前線に立つ皆様に、サプリとの賢明なつきあい方をうかがいました。

 
■森谷敏夫 ㈱おせっかい倶楽部社長
 筋肉の研究を長年やってきましたが、専攻としては運動生理学で、京都大学の大学院人間・環境学研究科に在籍中、サプリの効果の実証や検証を数多く手がけました。
 一例をあげると、「ブラックジンジャー抽出物含有食品」がエネルギー代謝と自律神経活動に及ぼす効果を検証するのがテーマで、それに対応する研究費を企業からいただく。研究室の役割は、臨床試験の実施とデータの解析で、実際に〝効く〟のかどうか、調べます。
 契約を結びますと、学内の倫理委員会に申請します。ヒトを対象にした試験をする場合、倫理委員会の承認が必要です。科学的な手続きの遵守や人権の尊重を筆頭に、こういう研究を京大でやってよいのか、厳しく審査されます。
 具体的に見てみましょう。サントリーさんから依頼を受けた「セサミン」の研究です。「セサミン」で活性酸素の発生が抑制できるか、京大で測定しました。自転車こぎで、運動強度は80~90%、心拍数が最大になるような激運動を20分間、間違いなく活性酸素がガンガン生じる環境です。活性酸素は瞬時で消えてしまうので分析が難しい。ただ、活性酸素は、脂肪に攻撃をしかけて過酸化脂質に変わると安定するので、血中の過酸化脂質のレベルを見れば、どれぐらい活性酸素が出たかがわかります。
 

 
 棒グラフは3本1組で、左の灰色が何も飲まないグループ、真ん中の黄色が「セサミン」を、右の燈色はビタミンEを飲んだグループです。運動が始まってから20分経過すると、何も飲まない場合、運動前の2倍近くに過酸化脂質の濃度は上がります。ビタミンEのレベルは、やや高めで変わらない。ところが、「セサミン」を飲んだ群は、運動前から低めで、運動後にはむしろ濃度が低下しています。かなりの激運動をしても活性酸素は増えてこない。学術的に十分なデータなので、国際的な論文にして発表しました。特許を取得するには、こういうエビデンスが必要です。
 当時、喫煙習慣が与える影響について研究していましたので、活性酸素を抑制できるなら、喫煙の害をかなり打ち消せるのではないかという発想で実験しました。
 被験者は学生で、冠動脈疾患がないにもかかわらず、タバコを1本吸うと、心電図に虚血性心疾患の患者に見られる波形が出ました。同じ被験者が「セサミン」を飲んでからタバコを吸うと、心電図から虚血の影は消えて、自律神経もよく動いています。心臓の回復速度も、1割以上、速くなりました。
 一連の実験の結果、新しい抗酸化物質として期待されている「セサミン」は活性酸素の抑制に有効で、老化や生活習慣病の予防に効果があります。そして、喫煙前のセサミンの摂取は、心臓突然死の危険因子である心臓の収縮回復時間の遅延や、激しい自律神経活動への影響を緩和させうる可能性が示唆されました。
 

 
■西嶋泰史 有限会社ウエスタリー代表
 現代人の食文化では、昔に比べて微量栄養素の摂取量は確実に減っていると考えられます。きちんとした食生活も大切ですが、プラスアルファで健康食品を試してみる価値はある、と私は思っています。
 数多くの健康食品がある中で、どれを選べばいいか? サントリーの「ロコモア」のHPには、筋肉成分や軟骨成分等、4つの成分を組み合わせて配合した、歩行機能領域の機能性表示食品だと書いてあります。機能性表示食品は、消費者庁の所管で、「国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば」、表示できます。
 他方、特定保健用食品(トクホ)は、有効性や安全性を消費者庁が個別に審査し、許可を与えます。かなりの科学的データが必要で、許可を取得するのに、1年から3年かかるケースもあります。こうした表示や発表されている論文の数は、ひとつの目安になるでしょう。但し、気をつけないといけないのは、必ずしも万人に効くわけではない、という点です。服用を続けながら、自分の体を丁寧に観察できる人は最終的によい健康食品に巡り合えているし、健康になっているというのが、ビジネスをしてきた中での実感ですね。
 
■田中齊太郎 ㈱タナカバナナ代表
 百年ぐらい前からバナナ屋を営んでおりまして、私で六代目になります。皆さん、バナナと言えば、黄色く甘いものと想像なさるかもしれませんが、我々は、フィリピン等の産地から、熟す前のグリーンバナナを輸入してきます。それを、次のスピーカーの工藤さんのところで「レジスタントスターチ」と呼ばれる難消化性のでんぷんに抽出してもらう、という関係にあります。
「はじめての腸活」と名づけて、8月7日の「バナナの日」から売りはじめました。有機栽培の食材を扱うスーパーでは、店頭のスタッフさんが、プロテイン売場の横に置きました。ちなみに、バナナ売場の横に置くほうが売れるのではないかと僕は思っているんです。サプリに見えると、薬機法(旧薬事法「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律」)のからみで、体に効きそうな表現は書いてはいけない。「腸活」なら?「お通じがよくなりますよ」なら?
 昔からあるバナナ、そもそも果物は、体に元気を与えてくれるという意味で、サプリ的だと言えなくもないのですが、でんぷんという白い粉に姿を変えた途端、販売しようとすると、法律をはじめ、気を付けないといけないと、実感しております。
 
■工藤泰正 スマートスターチ㈱代表
 バナナは赤道に近い中南米からアジアに生息しますが、日本や欧米が買っていくのは、とにかくきれいで大きなバナナばかり。でも、小ぶりなものもあれば傷もの、木から収穫されずに終わってしまうバナナも沢山ある。そんなバナナを捨てずに活用すべく、でんぷんを抽出する研究をずっとやってきたのが、弊社取締役の林原克明です。この「レジスタントスターチ」を世界に広めていこうと、起業したのがスマートスターチ㈱になります。
「レジスタントスターチ」が注目されている点は、3つあります。1つめは、「難消化作用」、2つめがプレバイオティクス作用、3つめがポストバイオティクス作用です。普通は食べると胃と小腸で消化されるので、身について太り、血糖値も上がりますが、でんぷんだと、ほぼ消化されずに大腸まで抜けていきます。また、腸内で発酵して、善玉菌を活性化させるような機能があり、便秘の改善につながる可能性があります。更に大腸の中で、短鎖脂肪酸という有益な物質を出しています。
 バナナからとったでんぷんの中には、およそ60%のレジスタントスターチが含まれていますが、今後は、整腸作用を中心に、特定保健用食品や機能性表示食品の認可を視野に入れつつ、大学の研究室とも連携し、効果を確認していきたいと考えています。
2020年10月19日 東京で開催

 

編集後記にかえて
菊池夏樹
高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友

 
少し前から筋肉を鍛えだした。隔世遺伝といっても産み月を過ぎたようなお腹では、動きが鈍くなる。75歳までには、まだ何ヶ月か間がある。それまでに森谷敏夫博士から得た科学的というかエビデンスに基づく筋肉作りをしたくなった。私など何でもそうだが、やりたくならないと他人から言われてもしない。しても続かない。しかし、自分がその気になった時には、懸命にする天邪鬼なのだ。筋肉作りには、食事以外に良いサプリメントが必要なようだ。若けりゃ、ジムでもいいかも知れないが、この歳になると何かの助っ人が必要になってくる。中高年は、筋肉弱者なのだ。私は、腹筋、軽いダンベル、スクワットの後に美味しいプロテインを飲むことにした。