情報素材料理会<第111回> 

〝あなたが主役〟
の高齢者政策へ!



講師:小島 敏郎

都民ファーストの会
東京都議団政務調査会 事務総長
愛知県政策顧問 名古屋市経営アドバイザー
早稲田リーガルコモンズ法律事務所 弁護士
 

 高齢化が急速に進む中、日頃、あなたの意見は政策に反映されているとお感じでしょうか? 今回は、永年、政策立案に携わった行政のプロ、小島敏郎先生をお招きしました。東京都を中心に、高齢者を取り巻く現状を確認しながら、人生百年時代を巡る諸問題を皆さんと一緒に考えたいと思います。

 
 霞が関で役人生活を35年続けて、ずっと国の立場からいろんな問題を見てきましたが、役所を辞めた後は、地方自治体で行政に携わるようになりました。最初は、高校の同級生の河村たかしが名古屋市長選に出るというので選挙を手伝い、名古屋市経営アドバイザーというポストでいくつかの案件に関わりました。次に、役所の時から知っていた大村秀章さんが愛知県知事選に出馬したので一緒に選挙をやり、政令市と県の行政を見たんですね。今度は、都知事になられた小池百合子さんとのご縁で、東京都の顧問に就きました。今は東京都議会での活動が主ですが、役所から見ている、あるいは都庁から見ているのと、議会から見ているのでは、違う景色が見えてくる、そう実感しています。
 私も70歳になりました。高齢者対策はまさに自分対策でもありますね。俗に、「2025年問題」と言われますように、我々〝団塊の世代〟(1947~1949年生まれ)が揃って75歳の後期高齢者になってしばらくの間、日本の社会は窮地をしのいでいかないといけません。

 
フレイル対策
 東京都医師会は近年、「フレイル対策」を盛んに打ち出しています。「フレイル」とは、英語 frailty の略です。人は年を経るにしたがって段々と体力が弱くなり、外出がおっくうになり、病気にならないまでも、手助けや介護が必要になってきます。こうして、心と体の働きが弱くなってきた状態をフレイル(虚弱)と呼びます。
 今までの行政は一足飛びに、要介護になった人をどうケアしようか、まず介護保険の問題を考えていました。ところが、65歳以上の高齢者の数は、東京都だけで300万人を超えています。例えば、東京都は待機児童対策とか、子供を対象にした政策に力を入れて、お金もかけていますが、お年寄りに対して、同じようにお金をかけていれば、どんな自治体だって破産してしまいます。数が多いですから。ならば、要介護にならないよう、「フレイル」や「プレ・フレイル」段階で対策を打たなきゃいけない。
 今までは介護予防事業と言っていましたが、それは社会福祉に莫大な金がかかるから、何とか減らさないといけないという行政サイドの考えで、当人にすれば、いつまでも健康でいたい、ということなんですね。つまり、健康寿命を延ばすには、どうすればいいかと発想を切り替えたい。
 東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授が監修なさっている東京都医師会のホームページでは、フレイルを予防し、健康長寿を目指す指針として、①栄養―バランスの良い食事と口腔機能の維持 ②運動―しっかり、たっぷり歩く ③社会参加―お友達とおしゃべりや食事を の3つを挙げています。
 とりわけ注目したいのが、③です。社会参加の機会が減ると、フレイルの最初の入口になりやすいとわかってきました。女性は自分達のコミュニティを近所に作っていますが、男性は会社を辞めると、社会性をなくしてしまうんですね。最初に試すのはスポーツジムと図書館で、それ以外に行くところがないし、すぐ飽きる。しばらくして病気自慢になる。友達がいない、新しい場所にもなじめない、となると段々外出の機会が減る。独居の場合、1カ月も2カ月も他人としゃべっていないといった状態になると、いよいよ気持ちが沈んでくる、そうなると体も弱ってくる。
 令和元年度の東京都の予算を見てみますと、「介護予防・フレイル予防推進事業」と「認知症検診推進事業」を合わせ、「高齢者の暮らしへの支援」に362億円が新たに計上されています。また、シニア世代の生きがい創出を狙いとする「シニア世代の地域コミュニティ等への参加促進」には8000万円、「シニア予備群向け読本の作成・配布」も新たに実施が決まっています。高齢者が65歳以上、75歳からは後期高齢者で、50~64歳を高齢者の予備群と名付けたようです。およそ100万世帯に配布する計画です。
 
東京都の高齢者
 さて、東京都の現状を統計(2015年の国勢調査時点)で確認してみますと、高齢者の数は301万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は22.7%に達します。この先も高齢者の増加は続き、高齢者率は、2025年には23.3%、2030年には24.3%と上昇が見込まれます。
 高齢者率は、西部の多摩地区で25%と高くなっていますが、都心部では17.5%未満の区も見られ、差が顕著です。一世帯当たりの人員で見ると、郊外では、およそ2人以上2.2人未満なのに対し、都心部では1.8人未満が多くを占めます。孤独な生活を送っている人が都心部には多いんですね。若い人はまだいいんですが、課題は独居のお年寄りです。2015年には、東京都で高齢者が1人で住む世帯が全体の11.1%でしたが、20年後には15.8%まで上昇すると見込まれています。独居の高齢者が百万人を超えるという事態です。地方の過疎地に比べれば、高齢者率はさほど高くはないんですが、数が多いのが東京都の抱える課題だと言えましょう。

 前述したフレイルの問題に直結しているんですね。独居で社会性を失い、他人と話もしない状態が長く続く。行きつく果てが孤独死なんでしょう。
 
高齢者の住まい
 高齢者の暮らしを住まいの面から見てみると、都内の高齢者世帯のうち、65歳以上の夫婦世帯(総数51.5万)は75.2%が持家であるのに対し、65歳以上の単身世帯(総数76.1)は54.4%が持家です。高度経済成長のひとつの到達点でしょう、75%は驚異的ですし、単身世帯が低いといっても5割を超えています。持家でない人が、民間賃貸住宅への入居を制限されるという課題はありますが、かなりの人が住まいには困らない、〝今は〟ですよ。
 介護が必要になった時の住まいの希望を調査してみると、持家に住んでいる人の6割が「現在の住宅に住み続けたい」と答えています。住み慣れたところで住んでいたいんだけど、「誰が介護してくれるの?」となると、社会的なサポートが必要になる。ところが、施設の数が圧倒的に足りないんですね。だから在宅介護中心でとなるわけですが、それも結構大変です。考え方を変えていかないといけません。

 
認知症も当事者目線で
 最後は認知症について。ある日突然何もわからなくなってしまうわけじゃないんですね。健康と同じで、精神も少しずつ変わっていきます。ところが、認知症となると、もう何もわからない人みたいに扱われてしまう。認知症になっても、要介護1や2の段階だと、まだ軽いわけです。家に帰って来れないかもしれないと不安に思っても、買い物には出かけたい、でもサポートがありません。
 体が弱い、足が悪い、あるいは目が不自由な場合は他人の目に見えるので、周囲が助けてくれます。地下鉄に乗るとして、今は都営でも東京メトロでも教育が行き届いてルールができていますから、車椅子の人だって利用できます。ところが認知症は目に見えないので、そういうサポートがありません。外に出なくなると、病気がますます進行してしまう。今ある認知症の対策は、他のハンディキャップを持っている人達に対するサポートに比べると十分じゃない。都議会でもようやく議論が始まったところです。
 福祉行政は、当事者の意見を聞くのが基本です。認知症についても、まず介助者から話を聞いてしまいがちですが、代理人や代弁者ではなく、本人に意見を聞いて、支援体制を考え、実施してさらに意見を聞くフィードバックシステムを確立したいですね。
 
編集後記にかえて
菊池夏樹
高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友

 
フレイルとは、加齢や病気によって心身の機能が低下してしまった状態を言うらしい。定年後、行動を起こさないと「社会性が無くなり」「心が弱り」最後には「身体が弱る」。それを防ぐには、楽しみながら働けるシステムが必要だと思う。何か趣味を持つのも良いが、趣味だって金がかかる。週に2回趣味で楽しみ、週に3回働き、休日は家庭で、今まで仕事の鬼と化していた罪ほろぼしをする。働き方だが、今まで培った能力を利用出来るシステムが欲しい!