情報素材料理会<第110回> 

身体主義!
今日から始めるロコモ予防



講師:渡會 公治

医師(スポーツ整形外科)
帝京科学大学総合教育センター特任教授
  

「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)を略して「ロコモ」と呼びますが、皆さんはどれぐらいご存じでしょうか。「ロコモ」とは、運動器の障害のために移動機能が低下をきたした状態を指します。スポーツ医学の専門家である医師の渡會公治先生が、人間の身体を理解し、身体を上手に使うロコモ予防策を指南します。

 

「ロコモティブシンドローム」は、立ったり座ったり、歩いたりといった日常の動作が上手くいかなくなる状態を指します。症状が進めば、当然、要介護のリスクは高まります。若い頃ならなんでもない動きが、加齢とともにできなくなる。高齢者にとっては深刻な問題です。本日は、このロコモの予防について、お話をさせていただきます。
 要支援・要介護になった原因を探ると、第1位として、脳卒中など「脳血管疾患」、次いで「認知症」が並ぶのですが、「転倒・骨折」「関節疾患」「脊髄損傷」という運動器の絡んだ3項目を足してみますと、ちょうど4人に1人で、第1位になります。

 超高齢社会の到来で、足腰の悪い人が急増している、早急に対処しなければいけないというので、二〇〇七年に日本整形外科学会が提唱し、以降、官民あげて対策が盛んになりました。
 運動器というとイメージしづらいと思います。骨と関節が体を動かすわけですが、筋肉や神経、ひいては脳までを含めて運動器と呼びます。自動車に例えると、エンジンが循環器系とすれば、運動器は車体やタイヤといった役回りです。脳から神経の末端まで、運動器の各パーツのどれが壊れても、身体はうまく動きません。
 ロコモを病気から見ると、身体を支える骨の病気、身体を動かす関節の病気、身体を動かす命令を出す神経と筋肉の病気の3つに大別できます。各要素が関連しながら緩やかに、筋力が低下したり、バランスがとれなくなったり、可動域が狭くなったり、痛みが増すといった症状が出始めます。
 骨の病気の典型例が、骨粗鬆症です。特に閉経後の女性に多く見られ(患者の約8割)、骨や筋肉が少なくなって、転ぶと簡単に骨折してしまいます。
 関節の病気には、軟骨がすり減って痛みが出たり、曲げ伸ばしに制限が出たりする変形性関節症があって、整形外科の患者さんの中で最も多数を占めています。ほとんどが膝です。
 神経の病気には、腰部脊柱管狭窄症が、筋肉の病気にはサルコペニア(筋肉減少症)があります。筋肉が細くなっている人は、骨も薄いんですね。女性の場合、元々男性に比べて筋肉・骨量が少ない。閉経でさらに骨が薄くなってくるので、男性より大きな問題になります。最近では、80歳を超えるような人たちの体重減少や倦怠感、活動度の低下に着目したフレイルという言葉も使われるようになっています。
 

 ロコモの原因や症状は日常生活に潜んでいるわけですが、さっそく、あなたのロコモ度を「7つのロコチェック」で調べてみましょう。該当する項目が1つでもあると、ロコモの可能性があります。

 ①~③についてはそのままのとおりです。④やや重い家事といえば、布団の上げ下ろし、電気掃除機を使った掃除、こんな仕事がおっくうになる。
⑤重いレジ袋を提げて持ち帰るのがつらい。⑥前述した脊柱管狭窄症だと、15分続けて歩くと座りたくなる。間欠跛行と言います。普通にしていれば何ともないけれど、ある時間経つとしびれてくる、痛む、それで休む。動脈硬化で血管が狭くなっている症例もあります。その場合、休んでじーっと待っていないといけないのですが、背骨の場合は、座るとスッと楽になるのが特徴です。⑦年を取ると歩くのが遅くなります。日本では、横断歩道は1秒間に1mで設計されているそうです。とすると、1分間に60mは歩けない、という速度になります。1分間に20mしか歩けなくなると、ひとりで生きていくのは難しいとされます。
 

 ロコモの疑いがあるとして、実際に診断するには定量化が必要だというので、「ロコモ度テスト」が考案されました。下肢の筋力を測る「立ち上がりテスト」、歩幅を調べる「2ステップテスト」、身体の状態と生活状況について25の質問に答えていただく「ロコモ25」の3つで構成されています。
 例えば「立ち上がりテスト」では、40㎝の台に両腕を組んで腰かけ、片脚または両脚で、立ち上がります。椅子で結構です。反動をつけずに両脚で立ち上がってみてください。次に、片脚で試してみてください。反対側の脚でも。片脚になると「おやっ」と思う、あるいはよろっとくる。重力の世界で生きているんだと実感できるでしょう。どちらか一方の片脚で40㎝から立ち上がれないと、「ロコモ度」は「1」で移動機能の低下が始まっている状態です。両脚で20㎝の高さから立ち上がれないと、「ロコモ度」は「2」。移動機能の低下が進行している状態と診断されます。
 

 ここからは、ロコモ予防策の実践編です。実際に運動をしながら、身体の感覚をつかんでいただければ幸いです。ちょっと先取りすれば、ロコモにならないように備え、健康寿命を延ばすために、まず、人間の身体を理解し、身体を上手に使いましょう、というのが私の出した結論です。
 他の動物と比較すると、人間の最大の特徴は、2本の足で立っていることです。一説に400万年と言われますが、ヒトは長い時間をかけて進化してきました。2本の足で立つので、確かに腰椎が大きくなって支えができたけれど、腰痛は起こる。立っているからしようがないとも言えますが、立ち方をもう少し考えれば、腰痛は少なくなる。「治せますよ」と私は言いたいんですね。そこで、「美しく立つ」というキーワードを念頭に、運動してください。
 
《片脚立ち》
 立ち上がって、床につかない程度に、そっと片脚をあげてみてください。姿勢はまっすぐを心掛け、転倒しないように必ずつかまるものを確保してください。右脚をあげて、1分間、静止してみましょう。次に左脚をあげて、同じように1分間。30秒を過ぎると、疲れが実感できると思います。立つという動作には結構、体力が必要なんですね。また、手をつけば簡単にバランスをコントロールできる。だから、杖をつくのはいいんです。この片脚立ちを、1日3回を目標に続けてください。
 
《肘まる体操》
 肩こりや首の痛み、手のしびれには、背骨をほぐし、背骨を使うのが有効です。右の手をたたんで肩に置いて、肘の先で〝まる〟を描くように動かします。だんだん大きく。次は逆回し。ゴリゴリいう人はもっとオーバーに動かすと柔らかくなります。今度は〝まる〟を徐々に小さくしてみてください。背骨が動くのがわかるように。休んで、手を下すと、右と左が違うんですね。ということで左もやります。手を背中に当てて背中が動くのを感じてください。はい、逆回し。今度は手を鎖骨肋骨に添えていただくと、鎖骨ってこんなに動いているのかという発見がある。こういう動きがなくて、首だけ動かすから痛くなる。肩だけ動かすから痛くなる。やはり、全身上手に動かすということが回答になりますね。
 
《さしすせそ運動》
 3つの「S」―スクワット、ストレッチ、背骨の体操をセットにして、毎日の生活習慣に取り入れてください。そのためにキャッチコピーとして「さしすせそ」を考えました。「さあ笑顔」「しゃがんで立って」「すじをのばし」「せぼねをほぐす」「それを毎日」運動は低回数、高頻度の原則を頭に入れてください。沢山やれば早く治るだろうと思って頑張ると、疲れてしまうし、飽きがきます。三食、寝る前、トイレに合わせて一緒にやってしまうと、習慣になりやすいでしょう。
 背骨を上手に動かして、背骨と足をつなぐ筋肉をストレッチングし、しっかり立つことを目標にしてください。
 
*ご参考
渡會先生が代表理事である美立健康協会のサイトでも3つの「S」や肘まる体操等の紹介ページがあります。
http://biritsu.jp/
 
編集後記にかえて
菊池夏樹
高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友

 
私は家人から「貴方は、首が無いのよね~ぇ!」とよく言われる。首は、有る! ネクタイだって締められる。それでも「無い」とは何事か! と顔を洗いながら鏡に映して見ると首が無い。横を向くとその姿は、まるで400万年前の類人猿のようだ。頭の中心から背筋を真っすぐ通した線が描けないのだ。躰は「イの字」形をしている。頭がちゃんと胴に乗っていない。道理で肩こり、腰痛が若い頃からあるはずだ。ストレッチをしなきゃ!