ミンスキー博士の 脳の探検
~ 常識・感情・自己とは ~

著 者:マーヴィン・ミンスキー
訳 者:竹林 洋一
出版社:共立出版
 
 

 
 

私は本書を長時間「探検」することによって、日本の読者の皆さんにたくさんの役に立つ新しい“思考路”を提供したいと願っています!
(「日本の読者のみなさんへ」より)

 
 脳の心的活動は、数百もの部位「思考素」を塊りとした「思考素群」が、それぞれ異なった法則に依存してスイッチを切り替える「思考路」により行われている。その法則は物理学で示されるようなある統一した理論ではない。
 この「思考路」に基づく、脳の働き、心の動きに関する著者のユニークな着想と論理は、人工知能分野だけでなく、心理学、哲学、脳科学、情報処理など幅広い分野の知的好奇心を刺激してくれる。
 訳者は、ミンスキー博士の考え方を基に、人工知能学や情報学を駆使しながら、超高齢社会の一つの課題である「認知症」を個性ととらえ「認知症」と共に生きるためのイノベーションを研究、創出している。共同研究者であるが故に日本語訳も読みやすい。
 
 
2018年1月号より
 

火あぶりにされたサンタクロース

著 者:クロード・レヴィ=ストロース
訳 者:中沢 新一
出版社:KADOKAWA
 
 

 
 

サンタクロースが、昨日午後、ディジョン大聖堂の鉄格子に吊るされたあと、大聖堂前の広場において人々の見守るなか火刑に処せられた。
(十二月二十四日 夕刊紙「フランス・ソワール」)

 
 国王の色である緋色の衣服を身にまとい、優しい笑みをたたえ、クリスマスイブに子供たちにプレゼントを届けてくれるあのサンタクロースの身の上に何が起こったのか。
 1951年にフランスで起こった事件を起点に、サンタクロースとクリスマスにスポットを当て、太陽の力が弱まる冬至をはさんで行われた異教世界の死者儀礼が、どの様にしてキリスト教の祭りに組み入れられ、変形されていったかをそれまでにない斬新な着想で明らかにしている。
 クリスマスは、キリスト教世界の生んだ習俗の世界的ヒット作であることは間違いない。
 
 もうすぐクリスマス。クリスマスの意義を本書から学んでみてはどうだろうか。
 
 
2017年12月号より
 

行動経済学の逆襲

著 者:リチャード・セイラー
訳 者:遠藤真美
出版社:早川書房
 
 

 
 

本書を読むにあたっては、私から助言したいことが一つだけある。この本を読んで楽しく感じなくなったら、読むのをやめてほしい。楽しくないのに読み続けるというのは、それこそ誤った〝ふるまい”になるだろう。(「第1章 経済学にとって〝無関係”なこと」より)

 
 セイラー教授! ノーベル経済学賞、授賞おめでとうございます!
 授賞理由は、心理学をはじめとするすぐれた社会科学の知見を取り入れた「行動経済学」の発展に貢献したこと。
 著書は、「行動経済学」の理論と実証、発展過程に自伝を加え、ウイットに富んだ筆致で、とっつきにくい経済学を私たちにもわかりやすく解説してくれる。アメリカ・ヨーロッパでの「行動経済学」の鼓動も聞こえる。笑える知的エンターテインメントがここにある。
 キーワードは、〝nudge”。読みと意味そして誕生秘話を提唱者のセイラー教授に語ってもらおう!
 
 
2017年11月号より
 

サピエンス全史 上・下
~文明の構造と人類の幸福~

著 者:ユヴァル・ノア・ハラリ
訳 者:柴田博之
出版社:河出書房新社
 
 

 
 

私たちが自分の欲望を操作できるようになる日は近いかもしれないので、ひょっとすると、私たちが直面している真の疑問は、「私たちは何になりたいのか?」ではなく、「私たちは何を望みたいのか?」かもしれない。(「第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ」より)

 
 人類の文明進化は、認知革命、農業革命、科学革命の3つの革命を経て現代に至る。認知革命の中で、架空の物事について語れるようになった「虚構」が協力を可能にし、「社会」を創造したことは、それまでの生態系を破壊しサピエンスの繁栄につながる転換点となった。
 今後の科学技術の発展や社会性・コミュニティの変化は、個人のアイデンティティとは何か、個人の幸福は何かという課題を突き付けている。
 
 サピエンスの過去、現在、未来を俯瞰するスケールの大きなリベラルアーツの書。ロジカルで本質をとらえた考察を行う歴史書は、知的好奇心を刺激してやまない。
 
 
2017年10月号より
 

つながり
~社会的ネットワークの驚くべき力~

著 者:ニコラス・A・クリスタキス
    ジェイムズ・H・ファウラー
訳 者:鬼澤 忍
出版社:講談社
 
 
 
 

六次の隔たりと三次の影響
 友人の友人の友人の体重が増えると、自分の体重も増える
 友人の友人の友人がたばこをやめると、自分もたばこをやめる
 友人の友人の友人が幸福になると、自分も幸福になる

 
「ネットワーク」というテーマを研究する医学博士と政治学者が、共通の友人を通して「友人の友人」としてつながり、協同研究した結果、社会的影響は知っている人のところで留まるわけではないことが見えてきたという。
 
 人間は人と人とのつながりのなかでしか生きていけない。また、人間のネットワークは、それ自体が命を持つ特別な存在であり、拡大し、持続するには「利他主義」と「善良さ」の両方が不可欠であると説く。
 
 私たちと他人との絆(社会的ネットワーク)が、感情、性、健康、政治、お金、進化、テクノロジーにどう影響するのかその具体事例(エビデンス)を楽しんでいただきたい。
 
 
2017年9月号より
 

ずる
~嘘とごまかしの行動経済学~

著 者:ダン・アリエリー
訳 者:櫻井 祐子
出版社:早川書房
 
 
 
 

はっきり言わせてもらおう。あいつらはずるをする。あなたもずるをする。
そしてそう、わたしもときどきはずるをする。(本書 第一章 冒頭より)

 
 ダン・アリエリー氏の行動経済学実験はとにかく面白い。行動経済学とは不合理な行動をとる人間特性を前提とした経済学であり、この不合理行動は、測定可能という。
・解答用紙を破棄させて点数を自己申告させるとどうなるか
・署名の位置を変えると不正請求はどうなるか
・試験前に祖母が亡くなる生徒の割合はどうなるか
・ニセモノを身に付けるとごまかしはどうなるか   等々
 実験結果が示すのは、「ひとはずるをするけれども、それほどはずるをしない」ということだ。本書にて紹介された不合理な意思決定を行ってしまう「クセ」に対して、実社会の中でどのように応用するかは、私たちに示された課題のように思えてくる。
 ダン・アリエリー氏にとって「ヒト」は尽きることのない研究対象なのかもしれない。
 
 
2017年8月号より
 

LIFE SHIFT
~100年時代の人生戦略~

著 者:リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット
訳 者:池村 千秋
出版社:東洋経済新報社
 
 
 
 

長寿化は、社会に一大革命をもたらすと言っても過言でない。 過去のモデルは役に立たない。
(本書「日本語版への序文」より)

 
 日本の平均寿命は戦後70年間で急速な伸びを示し、今や、世界のトップクラスとなった。
 この長寿化「人生100年時代」には、私たちが当たり前と考えている「教育→仕事→引退」という人生3ステージでは対応できず、2つもしくは3つのキャリアを持ちながらマルチステージの人生を組み立てる必要がある。
 今後重要となるのは、生産性資産や活力資産、変身資産といった無形資産を身に付けたうえで、生きがい面と経済面のバランスを取ることである。
 人類600万年の歴史の中で、この長寿化への回答は、経験のなかには存在しない。
 
「文明が成功した」結果である長寿化も、日本では負の側面が話題にされがちだ。
 年代を問わず、現代に生きる人間に、長寿社会における新しい人生哲学を持つべき時期に来ていることを示唆しているのではないかと思う。
 
 
2017年7月号より
 

人体600万年史(上)(下)
科学が明かす進化・健康・疾病

THE STORY OF THE HUMAN BODY
Evolution,Health,and Disease

著 者:ダニエル E リーバーマン
訳 者:塩原 通緒
出版社:早川書房
 
 

 
 

私たちの身体のなかには物語がある。進化の歴史というとても重要な物語だ。
(本書「はじめに」より)

 
 本書の核をなすテーマは、人間の進化と健康と病である。
 身体に良くないと思っても、その生活習慣をやめられない・・・。なぜ?
 この答えは、これまで辿ってきた人類進化の歴史を理解すると見えてくるものがある。
 それが600万年の時の流れであり、著者は、私たちにわかりやすく語ってくれる。
 現在、地球規模で蔓延する生活習慣病は、農業革命と産業革命の環境変化に身体適応が追い付かない「ミスマッチ病」であり、この原因を是正しなければそのまま次世代に伝えてしまう悪循環「ディスエボリューション」を生んでしまう状況にある。
 病気の直接的な要因究明と症状への対処法だけでは、予防可能な病気を予防できない。
 自分の健康とは何かを考え、表面的な対処法だけに頼らない生活習慣をこの機会に考えてみてはどうだろうか。答えは皆さん自身の中にある。
 
 
2017年6月号より
 

死すべき定め

死にゆく人に何ができるか

BEING MORTAL
Medicine and What Matters in the End

著 者:アトゥール・ガワンデ 
訳 者:原井宏明 
出版社:みすず書房 
 

 
 

 「彼女にとってもっとも恐ろしいこと、もっとも心配なことは何か?もっとも大事な目標は何か?どのような犠牲なら進んで差し出すのか、そしてどのようなものなら応じないか?」(本書より)

 
 医療技術が進歩し、がんなどの重い病いを克服しながら、私たちは長い人生を生きるようになりました。平均寿命はいずれ100歳になるという予測もあります。「豊かに生きる」ことに意識的でも、いずれ来る「死」に多くの人は無防備です。現役の外科医で『ニューヨーカー』誌のライターであるアトゥール・ガワンデは、患者の終末期に医者として向き合い、いくつもの「最期の決断」に立ち会います。末期がんとなった父親と、家族、ガワンデ本人と、共同で「意思決定」をします。「死すべき定め」に向き合う時、本人、家族、そして医者は、何をどのように「決定」すべきか?心理学、行動経済学を踏まえて実践された多くの「決断」は、終末期の、人の「感情」と「幸福」を改めて問います。
 
 
2017年5月号より