おせっかい倶楽部
 

情報素材料理会<第81回>

「マインドフルネス」のすすめ

~「こころ」を健康にする3つの秘伝~


 

講師:森谷 敏夫 先生

京都大学名誉教授/京都産業大学・中京大学客員教授/NPO法人NSCAジャパン理事長/NPO法人EBH推進協議会前理事長。専門:運動医科学、応用生理学。著書:『京大の筋肉』『ダイエットを科学する』(ディジタルアーカイブズ)、『メタボにならない脳のつくり方』(扶桑社)など 

 


 

講師:石井 千恵 先生

医療法人社団清心会本部長/藤沢病院企画調査室長/メディカルフィットネス研究所アドバイザー/健康医科学協会副会長/精神保健福祉士/ACSM/EP-C(アメリカスポーツ医学会認定/ヘルスフィットネスインストラクター)/日本エアロビックフィットネス協会ADD・ADE/ケアマネージャー/相談支援専門員/ヘルスケアトレーナー/健康運動指導士/メンタルヘルス運動指導士。著書:『高齢者さわやか体操』(金原出版)など 

 

 

司会:菊池 夏樹 氏

高松市菊池寛記念館名誉館長 /
(株)文藝春秋社友
日本文藝家協会会員 日本ペンクラブ会員 /
ディジタルアーカイブズ(株)取締役

働き方改革が強く求められる今、ストレスとの上手なつきあい方を知ることが重要です。 「運動」と「メンタルケア」、それぞれの専門家であるお二人の先生から、「こころの健康」を守る方法をうかがいます。

 
【菊池】本日のテーマは「こころの健康」です。まずは、筋肉のスペシャリストである森谷先生から、こころと運動の関係について、お話しいただきたいと思います。
 
ストレスは免疫を低下させる
 
【森谷】昔から「病は気から」と言いますが、実はこれは精神神経免疫学というれっきとした学問です。例えば、男性が妻を亡くして独身生活になると、奥さんと一緒に暮らしている人と比べて死亡率は3倍も高くなります。一方、女性が夫を亡くした場合はどうかというと、寿命には全く影響がない。男性は打たれ弱く、女性は打たれ強いと言えるかもしれません。また、免疫の機能というのは、ストレスによって低下しやすい。特に、がん細胞を攻撃してくれるナチュラルキラーという免疫細胞は、ストレスに非常に弱く、ストレスをたくさん抱える人に、がんが起こりやすいということも分かっています。
 
運動とメンタル
 
 運動とメンタルにどのような関連があるか。中年女性の運動習慣と精神健康度を6年にわたって追跡したアメリカのデータがあります。6年間の調査ですから、調査開始後に運動をやめた女性もいれば、反対に運動を始めた人、調査前からずっと運動を続けている人などさまざまですが、およそ9000人を追跡調査したところ、身体活動のレベルに比例して、うつ症状の軽減、精神健康指標(CES-D)の改善が認められました。中強度の運動というのは、50歳以上の女性なら「1週間に速歩60分」。1回20分の速歩を週3回でもOKです。こうした運動を行っている人は、身体活動が少ない人と比べて、うつの発症は30%も低くなり、精神健康度は40%も高くなりました。うつ症状には、精神的な問題だけでなく、運動不足も影響するということです。
 

 
 男性のデータもあります。将来の目標達成に絶望感を感じている男性は、絶望感の低い男性と比べて、身体的に不活動で、体力が少なく、心血管系の危険因子をたくさん持っているということが分かりました。年齢・喫煙習慣・アルコールの消費量・心血管系疾患・社会経済的地位をすべて統計的に補正した結果、中高強度の活動が週当たり60分以下の男性は、2.5時間以上やっている男性と比較して、37%も多く絶望感を感じていたと。要するに、運動で体を鍛えている人は、そうでない人と比べると、絶望感をあまり感じていないわけです。かくいう私も、絶望感ゼロ。多幸感200%。
 
運動がこころと体を守るしくみ
 
 中年の男女17人に有酸素運動を30分間やってもらって、直後に感情プロフィール検査というものを行いました(このときの運動とは50%前後の運動強度、つまり30~40分は楽に続けられて汗はしっかりかく、ニコニコペースの運動です)。その結果、緊張・不安のスコアは統計的に有意に改善。また、抑うつ・落込み、怒り・敵意、疲労感、混乱も同様に改善が見られました。たかだか30分の有酸素運動で、こんなにも精神健康上で有益な効果があるわけです。
 ある程度の強度の運動を行うと、心臓の筋肉から心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)というホルモンが分泌されます。このANPが、がんの予防・抑制に大変有効であるといわれています。吹田にある国立循環器病研究センターで、最も転移が起こりやすい肺がんの患者さんを対象に調査を行ったことがあります。患者さんを半分に分けて、一方のグループにはANPを投与し、もう一方にはプラセボを投与しました。3年後、ANPを打ったグループでは、がんの転移が40%も少なかったのです。人間の臓器でがんができないのは心臓だけ。なぜなら、心臓は自分でANPを出すことができるからです。
 そして運動中には、脳内でβエンドルフィンという物質が安静時の3~5倍も出ます。βエンドルフィンにはモルヒネの6倍以上の鎮痛作用があり、運動後の爽快感や、精神的ストレスの解消に大きく貢献します。さらに、有酸素運動により、神経伝達物質であるドーパミンの分泌量も多くなります。βエンドルフィンによるリラクセーション効果や多幸感と相まって抗うつ作用を発揮するため、運動している人のほうが、うつ症状も少ないわけです。
 疲れたらごろ寝という人も世の中には多いと思います。しかし、ストレスから解放されるためには、やはり「運動」が大事。習慣的な運動でβエンドルフィンやドーパミンを出して、爽快感や多幸感を得てください。意欲・創造性が高まり、やる気が湧いてきます。運動と、バランスのとれた食事が、体とこころの健康を保つのです。
 
 

 
【菊池】ありがとうございます。続いては、メンタルケアの専門家である石井先生です。お願いいたします。
 
ストレスとつきあうということ
 
【石井】きょうは、健康で幸福な時間を過ごすための「秘伝」についてお話ししたいと思います。しかし、これは私の秘伝ではありません。皆さま自身の秘伝です。自分だけの戦略を作って、こころの箱に入れてください。
 

 
 最近よく言われる「健康寿命」。健康で長生きならいいのですが、介護が必要になってしまうと、家族も本人も大変です。そこで、これからは「幸福寿命の延伸」という新しい考え方が必要だと思います。実際に、幸せを感じている人や前向きな人は、そうでない人に比べ、寿命が7.5~10年長いということが科学的な検証で明らかになっています。ストレスというのは、生きていれば必ずあります。ストレスなく生きてしまうと、よく聞くのは、退職後、家に閉じこもってしまった人が、すぐに認知症になったという話。ストレスも適度にあったほうがいいということです。ストレスとのつきあい方が、幸せづくりにおいて大切なポイントです。
 
秘伝その1:心身一如
~こころと身体のSOSで「感情」を知る~
 
 「秘伝」の1つ目は、感情を大切にすることです。振り返ってみてください。最近、笑いましたか?それから、泣いた時間、怒った時間はどうでしょう?私たちの感情には、喜びや幸福感のほか、興奮、愉快、悲しみ、嫌悪、怒り、恐れ、不快感…、たくさんあります。そして、怒りを感じたときに体が震えるというように、多くの場合、「こころが先」なのです。ただし、こころよりも体のほうがお利口さん。体の不調から、こころのつらさを知るということがあります。「私は感情を閉じ込めていないだろうか」と、日頃から確認してください。心身一如。臨床心理学では、こころを解きほぐすために、まず体を解きほぐそうという考え方があります。例えば、坂本九さんの歌に「涙がこぼれないように上を向いて歩こう」とありますね。上を向くことで涙がこぼれなくなり、結果的に悲しみが少し和らぐ。体を動かすことで、脳やこころに同時に働きかけることができるわけです。
 ストレスに強いこころというのは、単純に強さというよりも、むしろ「柔軟性」と捉えていただくといいと思います。海草や竹のように「しなる」ことでストレスをかわす。不安を無理やり押さえつけないことが大切です。まずは不安を受け入れてみる。不安を感じているときに、大丈夫、大丈夫と押さえてしまうと、そのうち感じなくなって、気付いたら体のほうが反応しているということにもなりかねません。どこかがピクピクっとしたり、変に疲れたり…。そんなときは、自然体で自分を客観視して距離をとる。何か行動を起こそうと思ったら、まず、はーっと息を吐いてみる。さらに、心理学的には、きょろきょろと周囲を見渡すのも有効です。一点に集中しすぎると周りが見えなくなってしまうので、実際に視野を広げて、気持ちを落ち着かせましょう。
 

 
 皆さん、お口の中はどうなっていますか?いつも奥歯が重なっているという方は要注意です。私の病院では、うつで休職している人のための復職(リワーク)活動をやっていますが、歯科衛生士が質問すると、10人中10人が、常に歯を食いしばっていると答えます。こころの食いしばりをほぐすためには、体からのアプローチが効きます。意識して顔やあごの力を抜いてください。顔を指でタッピングして、おでこや目の周り、耳の前のツボをマッサージしてみるのもおすすめです。
 
秘伝その2:メラビアンの法則
~「表情」で伝える~
 
 人とのコミュニケーションでストレスがたまるという方も多いかもしれません。そこで、「秘伝」の2つ目は、自分の得意なコミュニケーション方法を知ることです。話すことが得意か、聞くことが得意か。会話は相手中心か、自分中心か。見て分かるタイプなのか、聞いて分かるタイプなのか。それでは皆さん、今朝食べたものを思い出してください。どうぞ。
 何を食べたか思い出すときに目が動いたはずです。(a)上を見た人は視覚が優位。(b)横を見た人は聴覚が優位。(c)目線が下にいった人は身体感覚が優位、なタイプ。相手や自分のタイプが分かれば、例えば誕生日のお祝いの仕方も変わります。(a)の人には目に見えるプレゼントを渡してみる。(b)なら耳元で「愛してる」とささやいてみる。(c)なら抱きしめてみる。そして、相手に伝わる感情・意志の総量は、言葉や声よりも、顔の表情が最も多くを占めます。これをメラビアンの法則といって、何を話すかよりも、話す様子のほうが伝わるということ。声の大きさ、高さ、抑揚、スピード。発声で自分の感情をコントロールすることも可能です。さらに、母音を意識した発音や、「はあ」「ふーん」「へえ」「ほお」といった浅い共感の相づちなど、こころの通った会話のために、言語と非言語コミュニケーションをともに活用していきましょう。
 
秘伝その3:「マインドフルネス」
~「気づき」でこころを解き放つ~
 
 最後の「秘伝」はマインドフルネス、「気づき」の時間を作ることです。特別な道具は何も要りません。一日3分で結構です。できたら10分ぐらいあるといいですね。パソコンやスマホから解放されて、何もせずに覚醒している時間を持つ。いわゆる瞑想というものです。実際にやってみましょう。
 手を太ももに置いて、軽く目を閉じてください。手に意識を集中すると、次第に頭に雑念が浮かんできます。いったんそれを受け止めて、次の瞬間ぱっと手を放しましょう。次に、自然な呼吸に意識を向けます。息を吸うとどんなふうに胸が膨らみ、息を吐くとどんなふうにしぼんでいくか…。
 ゆっくりまぶたを開けてください。浮かんでくる雑念をラベリングして、呼吸の感覚に戻ることを繰り返す。そのうちに、気づいていなかったことに気づいて、日頃からある雑念がぽこぽこ出てきます。それを受け止めて、手放すことで、こころのリセットができるのです。
 感情をとじこめずに、ストレスをうまく付き合う方法を自分なりに見つける。ストレスを解消するオリジナルの「秘伝」、ぜひご自身で作ってみてください。
 
【菊池】とても気持ちが楽になった感じです。会場の皆さまも同じではないでしょうか。先生方、どうもありがとうございました。
 
 
 

 私は71歳。若い頃は、陸上部の選手で過激な運動量だった。その後バンドを組んだ。担当はドラムだ。会社に入りゴルフを楽しんだ。そしてOBになり運動量が激変、これでは健康を維持できない。今、私は2つのバンドでドラムを敲いている。個人レッスンを始めた。そのため練習スタジオを借り週2回各2時間の予習をする。それに本番の練習。週に3~4回ドラムに向かう。ドラム浸けだ。楽器や譜面、2キロの荷持を持って、てくてく歩く。皆に上手くなったねと言われたいからだ。運動は無理をしては続かない。楽しみを運動に変えればいい。