おせっかい倶楽部
 

情報素材料理会<第99回> 

寿命を延ばす
食と運動

~細胞から若返ろう~

 


講師:森谷 敏夫 氏

京都大学名誉教授
京都産業大学・中京大学客員教授
NPO法人エビデンスベーストヘルスケア協議会理事
 

 老化を防ぎ、若々しく生きる。そのカギを握るのは「テロメア」という細胞ではないかとの研究成果が続々と発表されています。身体活動量はテロメアの長さに関わり、活発に運動する成人は、しない人よりテロメアが長く若いことが明らかになりました。「命のロウソク」とも呼ばれる、このテロメアを伸ばすにはどうすればよいでしょう。
 私たちの健康寿命を延ばす食と運動について、運動生理学の専門家である森谷敏夫先生に、世界の最新エビデンスデータに基づき解説していただきました。

 

 みなさんの体は約37兆の細胞でできています。その細胞はそれぞれ細胞分裂を起こして生きていきます。細胞の中の核という中心のところに、染色体という遺伝子があり、そこの両端にテロメアというのが存在します。テロメアは、細胞が分裂する時に、毎回ロウソクのように少しずつ短くなっていきます。事故に遭うなどしないと考えた時に、あと何年くらい生きられるかというのは、このテロメアを見るとわかります。テロメアが全部なくなると、細胞はアポトーシスといって自己死、自殺します。もう生きていけなくなる、つまり分裂できなくなると自分で死ぬんです。
 一方、がんというのは、このテロメアが遺伝子異常を起こして破壊された状態です。だから通常の分裂ではなく、永遠に細胞分裂し続けます。大学の医学部にがん細胞がありますが、これは元をただせば、ヒーラという女の人のがん細胞です。このがん細胞は、栄養を与えておくと永遠に生きます。これを研究者達に分けて、また培養して、ずっと引き継いでいます。このように、がん細胞は死なないんですね。
 

 アメリカでは、年々がんの患者さんが減っています。一方、日本では増えている。何故かわかりますか?
 がんは口から入る。毎日の食べ物ががんの原因なのです。
 食べ物は、腸で分解されて吸収されています。みなさん、腸の中に1㎏か2㎏細菌を飼っておられます。最近の話で腸内フローラ、腸内細菌といいます。これが食べ物を分解します。胃は1分間に3回しか動かないから、胃液と混ぜてゆっくり腸に送っていきます。
 例えば、肉が好きな人は肉ばかり食べます。何故かというと、肉ばかり食べていると肉を分解する菌が増えていくわけです。一方、野菜を食べないから野菜を分解する菌が少なくなる。そうすると、2~3日肉を食べないと、その菌は死んでしまうから、ご主人である人間に肉を食べるよう促します。そのようなものが大腸がんの発がん性物質になるわけです。そのうえ肉ばかり食べている人は、野菜をあまり食べないからどうしても便秘気味です。1週間ほど宿便していると、体温は36.5℃、我々がいろいろな菌を培養する温度も36.5℃です。つまり、腸の中では一生懸命自分の悪い菌を培養している状態なのです。だから、食べたら出す! スッキリ爽快にすべき。便秘の人が多いから、大腸がんが多いわけです。そして、毎日いろいろなものを食べましょう。できれば季節のもの。体に良いからと、同じものを何回も食べない。それ以外のものも食べるようにしましょう。
 アメリカでは、科学的にがんの予防に非常に有効であるといわれた食べ物についての教育を行っています。

「フードピラミッド」といって、一番上の三角形がニンニク、キャベツ、大豆、ショウガ、ニンジン、セロリ、パースニップ。このようなものが、代表的にがんの予防に非常に有効な食べ物です。玉ねぎとかウコン、全粒の小麦、オレンジやレモン、グレープフルーツなどの柑橘類、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ。これらをしっかり食べましょう、ということです。
 このように、がんの原因は、1位が食べ物。そして2位がタバコ、3位が感染症です。
 

 運動をすると、血圧が下がります。いや、運動すると心臓がドキドキするので、どんな人でも血圧は上がるはず。ところが心臓は賢くて、自分の血圧が上がらないように、医師が処方する降圧利尿剤と同じような物質を筋肉から分泌させます。この物質を心房性ナトリウム利尿ペプチド、ANPといいます。これが最近の研究で、がん予防に非常に有効だとわかりました。だから運動をよくしている人ほど、がんが少ないのです。
 実際に日本で運動負荷テストというのをやって、その人達をずっと追跡し、どれくらいの、どういう体力の人ががんになるかどうかを調べています。対象は9039名、17年追跡しました。この人たちの、年齢や血圧、喫煙や飲酒習慣を統計的に補正して、呼吸循環系体力とがんの確率を調べました。231名の人が亡くなり、そのうち123名の人が、がんで死にました。呼吸循環系の体力が一番低かったグループががんになって死んだ確率を1としますと、それよりもちょっと高めのグループは0.75でした。体力が少し劣っているくらいでも、一番劣っている人と比べると、がんになる確率はうんと減ります。体力が中から高レベルのグループでは、がんになる確率は0.43まで減りました。

 

 心臓循環系の病気や糖尿病でなかった男性41000人、女性は84000人をずっと追跡しました。その間、その人達がコーヒーや紅茶を1日何杯飲んでいるのか、カフェインが含まれている食品を摂取したか全部精査しました。すると追跡期間中、男性は1333人、女性は4000人が糖尿病になりました。ところが、年齢、肥満度、その他の危険因子を統計的に補正しても、コーヒーの摂取量とⅡ型糖尿病の発症率に逆相関、つまりコーヒーの飲む量が多ければ多いほど、糖尿病が発症しなかったというデータが出ました。コーヒーを全く飲まない人の確率を1とすると、1日に飲むのが1~3杯の人が0.98、4~5杯だと0.7になります。6杯以上飲むと0.46、半分以下になります。そんなにコーヒーを飲んでも大丈夫かと思われるかもしれませんが、大丈夫。これらのデータは、長期のコーヒー摂取がⅡ型糖尿病の発症危険因子を統計学的に有意に軽減する、ということで、コーヒーは糖尿病の予防改善に有効です。糖代謝を亢進(こうしん)するAMPキナーゼというのがありますが、コーヒーの中に入っている物質はそれをきちんと興奮させるので、糖と脂肪の代謝もよくなります。
 また、コーヒーのカフェインが血管疾患リスクの高い高齢者の認知機能低下に効果があるか否か、65歳以上の女性2475名を対象にした研究があります。日常的に摂取しているカフェインが含まれている食品116項目について、生活習慣など補正した結果、カフェイン摂取量増加に伴い、認知機能の低下率がゆるやかでした。つまり、たくさんコーヒーを飲んでカフェインが多い人ほど、認知機能が落ちていくのがゆるやかだったことがわかりました。最もカフェインを多く摂取していたグループと全くとらないグループの認知低下度は、年齢にして7歳に相当しました。
 このように、コーヒーのカフェインはよいものであり、自律神経を亢進してくれます。自律神経の交感神経と副交感神経、両方とも元気になるという我々のデータが『コーヒーサイエンス』という雑誌に掲載されています。

 では本題、コーヒーで遺伝子のテロメアが長くなるか…つまり、コーヒーを飲むと長生きできるのか。長生きできる人は何歳長生きできるか。
 4870名の看護師を対象に、コーヒーを飲んでいる量を調べました。すると、総コーヒー摂取量が多い人ほどテロメアが長くなりました。つまり、細胞が若返るということですね。テロメアが短くなるひとつの要因は炎症です。ところが、抗炎症反応や抗酸化物質を多く含むもの、例えばビタミンEなどをとると結構長生きになるといわれています。コーヒーにしてもそのとおりで、平均値よりも、2~3杯だと1.29倍、3杯以上の愛飲家は1.36倍もテロメアが長かったのです。
 ところで、カフェインならば、コーヒーより紅茶のほうが多いのですが、実は紅茶では効果がありません。全米の健康栄養調査から5826名の人が、黒人、白人、メキシコ人など全部人種も貧富の差もランダムになるように選んでの結果、カフェイン摂取量は、テロメア長と逆相関。つまり、カフェインの総量を比較すると、カフェインは多ければ多いほど寿命は短くなってしまいます。ただし、これはカフェインに限った場合であり、コーヒー自体のことではありません。全くコーヒーを飲まない人に限定した場合、1日100㎎のカフェイン摂取ごとにテロメアは40配列短くなっていました。ところが、コーヒー愛飲家のテロメアは、1カップのコーヒー摂取で33.8配列が長くなっています。
 つまり、カフェイン自身は決してよくないかもしれないけれども、コーヒーと、その中に含まれている抗酸化物質、ポリフェノール、カフェ酸、クロロゲン酸などがカフェインとの相互作用で、遺伝子のテロメアは長くなるということです。
 

 全米の大規模サンプルで運動が寿命にどう影響するか、5800人対象で、62種類の運動について調べました。見てみると、身体活動量は、全ての因子を補正してもテロメアと正相関。つまり、運動量が多い人ほどテロメアは長いという結果が出ています。活動レベルが最も高かった群と最も不活動なグループではテロメア長が140配列が違いました。テロメアという命のロウソクは、年齢が1年ごとに15.6配列ずつ短くなります。140を15.6で割ると9歳も差があります。だから、全米ではよく運動している人と椅子に座って運動しない人を比べると、細胞の老化レベルは9年違う。運動している人は9歳若いのです。
 また、運動をすると、海馬という記憶を司るところに脳由来神経栄養因子という遺伝子が増えることがわかりました。これが「ヒト」で証明できたのは2010年と、ごく最近のことです。運動不足になりがちな人の場合、脳の認知機能を維持する遺伝子のレベルが落ちます。ですから、認知症の一番の原因は運動不足と言っても過言ではありません。また、ストレスを与えたり、高脂肪食を多く食べたりしても落ちます。そういうわけで、認知症の予防に一番有効なのは、まずよく運動することです。ストレスをうまく発散し、高脂肪食、脂肪の多いものをあまり食べない。これが認知症の予防に最優先すべき事項です。
 高齢であっても、運動をすれば脳の機能は改善します。120名の高齢者のうち1年間ウォーキングを週に5回、1回につき40分、がんばってやっていただいたグループと、柔軟体操だけをやったグループとに分けました。海馬では細胞が毎年1%ずつ減少します。柔軟体操だけやったグループも脳の神経細胞が減っていきました。ところが、ウォーキングのグループでは、減るどころか海馬の容積が2%も増えました。
 

 健康を損ねてから亡くなるまで、男性なら9年、女性の場合は12年ほどあります。百歳までは生きられないかもしれませんが、それぞれの自分の持っている命のロウソクを多少長くすることは、食事と運動でできるというのが今の科学でわかっていることです。
 いずれ私も死にます。そして、みなさんも死にますけれども、やはりできるだけ元気でいられる時間を長くして介護される時間を極力短くするのが、一番理想的な死に方だと思います。そのためには多少は努力して、運動をしたり食事に気をつけたりして、ご自身の健康管理を実践していただければと思います。
 ご清聴ありがとうございました。

編集後記にかえて
菊池夏樹
高松市菊池寛記念館名誉館長/
(株)文藝春秋社友

 
  健康にあまり興味がない私でも、知らず知らずのうちに体によいことをしているらしい。現在72歳、コーヒーが大好きである。朝食にコーヒーを飲み、地下鉄の駅まで10分歩く。改札を出て長い階段を上り、コーヒーを一杯。また10分歩き、ドラムの練習スタジオに入る。3時間、両足をバタバタ、両手をバンバン、譜面を覗き確認する。ただし、百歳まで生きると家族が困るだろうから煙草を吸い、肥満でもある。