健康おせっかい倶楽部
 

情報素材料理会<第97回> 

血圧とうまく付き合うために
いま、知っておきたい大切なこと



講師:白崎 修 氏

医学博士
オムロンヘルスケア株式会社
生体工学専門職

 



講師:西村 周三 氏

厚生労働省社会保障審議会会長
医療経済研究機構所長
京都大学名誉教授
NPO法人エビデンスベーストヘルスケア協議会 特別顧問
 

 オムロンが家庭血圧計を世に出したのは1973年。当初は、医師には「病院の検査を家庭に持ち込むな!」、お客様には「病院で測った先生の値と違う!」と散々の評価だったそうです。それが、今や家庭での血圧測定は、世界の高血圧治療の基本だとのこと。今回は、血圧測定の専門家・オムロンヘルスケアの白崎修氏に、自らの高血圧との付き合い方を模索している当NPO特別顧問・西村周三が、お話をうかがいました。

 
高血圧とは?
 
【白崎】 心臓は、人が生きている限り、平均毎分70回、一日に大体10万拍も拍動し、血液を体中に押し出します。この血液を押し出す圧力が血圧です。ご承知のとおり、この血圧が通常以上に高いと高血圧ということになり、それが原因になって、脳や心臓・腎臓・血管に様々な病気を起こします。
 高血圧の人は極めて多く、日本人の場合、約4300万人が高血圧と推計されています。ちなみに、高血圧の基準値は、診察室血圧(医療機関での計測値)で、収縮期血圧(最高血圧)が140㎜Hg以上、または拡張期血圧(最低血圧)が90㎜Hg以上、の少なくともいずれか、となっています。
 高血圧によって引き起こされる疾患は数多くあります。「脳梗塞」は、脳の血管がつまって機能が停止してしまう疾患。逆に「脳出血」「くも膜下出血」というのは血管が破れてしまう疾患で、これらをまとめて「脳卒中」といっています。高齢者の寝たきりの原因となる代表的な疾患です。
 また、最近注目されているのが、「心房細動」が原因の脳梗塞。不整脈の一種である心房細動によって、心臓の中に血の塊(血栓)ができ、その血栓が脳まで上がって脳の血管を塞いでしまう、心臓と脳の2カ所が関係するたいへん怖い疾患です。心臓の疾患では、「狭心症」「心筋梗塞」「心不全」などがよく知られています。また、高血圧は、腎臓や血管にも様々な疾患をもたらします。
 ただ、こうした疾患は、実は血圧が高いだけでは起こりません。もう一つの大事なキーワードが「動脈硬化」です。血圧が上がると、動脈がしだいに傷んできて、血管の柔軟性が失われてきます。動脈が傷んで硬くなるとさらに血圧が高くなる。高くなるともっと動脈が傷む。これを繰り返しているうちに、様々な病気に行きついてしまうわけですね。
 高血圧に至るメカニズムは次のとおりです。
 まず、心臓から送り出された血液が末梢に流れ出します。その時、肥満やストレスがかかっている状態だと、末梢の血管が縮まって血液が流れにくくなる。すると、中心の血液がなかなか末梢に流れ出ていかず、血圧の下がりが悪くなります。充分下がらないうちに次の拍がきますから、下の血圧が高くなる。もう一つ、ストレスがかかると心拍も早くなります。すると、これもまた、落ち切る前に次の拍がきて下の血圧が上がる。この、下の血圧が上がる状態を拡張期高血圧といいます。
 ただ、これだけだとまだそんなに血管は傷んでいません。例えば肥満やストレス、塩分の摂りすぎなどの原因を取り除けば、血圧を元に戻すことも可能です。一時的に薬が必要でも、何とかなる可能性があります。
 ところが、この状態をずっと放っておくと、血管はさらに傷んできます。心臓が血液を送り出す衝撃は、しなやかな血管なら伸びて和らげてくれますが、動脈硬化があると、その衝撃が全て圧力に変わってしまう。そうすると上の血圧が大きく上がります。これを収縮期高血圧といいますが、こうなると、血管自体が傷んでいるのでなかなか元に戻りません。
ですから、若い人には、若いうちの血圧管理が非常に大事だということを強くお伝えしておきたいですね。


手遅れになる前に
認知症の恐怖
 
 若い人の血圧管理が大事なもう一つの理由は、若い時期の高血圧が認知症の原因だからです。
 認知症で最も多いのはアルツハイマー型で約半数がこのタイプ。実はつい最近までは、アルツハイマー型は高血圧と関係ないといわれていました。でも今は違います。次に多いのが脳血管性認知症で、これが20%くらい。この二つを合わせますと認知症の2/3以上となります。
 ただし、アルツハイマー型と血管性の認知症は、違うメカニズムで起こります。アルツハイマー型は、アミロイドβという老廃物が脳内に蓄積して、それが神経のいろいろな信号のやり取りを邪魔して、やがて脳の機能を奪ってしまうという認知症です。一方、血管性の認知症は、細い脳の動脈がつまったり出血して障がいが起こる。脳にいく血流が低下しますから、脳が働かなくなる。これが血管性ですね。
 本来、この二つの病気は全く違うメカニズムなのですが、実はお互いに強く作用し合う。つまり、血流が低下すると、神経の伝達も悪くなる。神経の伝達が悪くなると血流も悪くなる、というように互いに作用して、結局、アルツハイマー型と血管性の認知症は、何と40%以上も合併するのです。ということで、アルツハイマー病も、今は高血圧が原因だというふうに考えられています。
 ところで、みなさんは、認知症は高齢者の病気で、今の自分には関係ないと思っていませんか? 確かに、認知症の有病率が急激に増えてくるのは60歳を過ぎてからです。しかし実際は、認知症というのは発症のずっと前、30歳代から始まっている非常に足の長い病気なのです。
 最初は動脈硬化、血管が傷む、アミロイドβが蓄積していく、それから認知機能が下がっていって、最終的には認知症になり、脳の委縮など形状的にも変化が出てくる。これが何と発症の20年も30年も前から起こっています。ですから、残念ながら中年から高齢者になるところではもうかなりベースができてしまうのです。
 この図は、横軸が認知症の発症率です。
 
 

 中年期から高齢期にかけてずっと血圧が正常だったという方が1の割合で認知症を発症すると仮定すると、中年から高齢に至るまでずっと高血圧で通した人は、何とその7倍も認知症を起こします。また、中年の頃に正常でも高齢になって高血圧になった方は大体4倍弱。ここまでは分かります。問題は、中年の頃に高血圧で、高齢になってから治療を受けて正常値に戻っている方。この方はずっと高血圧であった人と変わらず、7倍近くの率で認知症を起こすのです。何故かというと、若い時に認知症のベースができあがってしまうからですね。若い方には、少なくとも認知症については若いうちに治さないと予防できない病気であることを、ぜひ知っていただきたいと思います。
 
そもそも
なぜ家庭血圧?
 
 ところで、血圧は病院でも測ってくれるのに、血圧計まで買って家庭で測定することにどんな意味があるのでしょうか?
 

 この図は、大体400人くらいの方に、診察室血圧と家庭血圧を測っていただいたグラフです。この1点1点が1人ごとのデータを示しています。
 ご覧の通り、図の左下の部分は、家庭でも病院でも低いので「正常」。右上はどこで測っても高いので確実な高血圧。「持続性高血圧」といいます。
 問題は、左上と右下。これが家庭と病院で違っているので、家庭で測る意味があるのです。
 まず、図の左上の方は、「白衣高血圧」といいます。普段は正常なのに病院で測る時だけ高い。お医者さんは高い血圧しか見ていませんから、「あなたは高血圧です、薬をあげましょう」ということになります。でも、病院で血圧が高いだけなので、本当はこの方はすぐには治療は必要ないはずです。このことは家庭で測定しないと分かりません。
 じゃあ自分は家で測って正常だからずっと大丈夫かというと、そうでもないということが、最近、分かってきました。実は、白衣高血圧の方は、最初の数年くらいは正常者と同じなのですが、その後どんどん、持続性高血圧の方を追い越す勢いで脳卒中を起こしてしまうというデータがあります。
 何故かはまだ分かっていませんが、数年の間に本当の高血圧になる可能性が高いなら、家庭血圧が上がってきていないかを日々チェックする。これが家庭血圧の測定が大切な理由です。
 次は、図の右下。病院では正常なのに、普段、家庭では高いという方。これを「仮面高血圧」といいます。この仮面高血圧は、降圧薬を飲んでいる人に多いといわれています。朝、降圧薬を飲むと、薬が効いて血圧下がり、一番効いた頃に外来受診で測定すると、血圧はOKですということになる。ところが、この方の薬の効きがあまりよくない場合、病院での測定後、血圧がどんどん上がっていき、1日のほとんどを高血圧で過ごしてしまうわけです。
 また、薬を飲んでいない、一見、健常者と思える方の場合、例えば明日人間ドックや健診がある晩は大酒も飲まず、当日は煙草も吸わず職場のストレスもなく過ごしますよね。そうすると、検査や受診の時だけは普段の血圧よりもずっと下がっているという人も結構いるようなのです。
 実は、この仮面高血圧は非常に恐ろしい高血圧。様々な病気の発症率とか死亡率を見ますと、仮面高血圧は持続性高血圧に並ぶほどリスクが高いのです。これは考えてみたら当然ですが、医者には全く正常に見えるのです。そうすると治療が遅れ、気がついた時には大変なことになっている。ですから重症化しやすい、ということで、非常に怖い高血圧です。しかし、これも、家で血圧を測っていないと見つけることもできませんね。
 というわけで、家庭血圧の測定は、現在、日本だけではなく、アメリカやヨーロッパ、それから中国でも、関連学会が家庭血圧測定のガイドラインを作って推奨。高血圧の診療は家庭血圧をベースにするように動いています。

 なお、それらのガイドラインでは、測定は毎日朝と夜の2回と推奨されています。血圧は、朝起きて1時間以内、お手洗いを済ましてご飯を食べる前、お薬を飲む前に、1~2分、安静にしてから測ります。安静時は、家族とのおしゃべりなどは避けましょう。夜ももう一度、就寝前に、朝と同じ手順で測定します。
 計測方法については、血圧計ごとに説明書をよく確認してから測ってください。朝と夜、1回だけでなく2回、不整脈のある方は3回繰り返しましょう。

【西村 私も、毎日血圧を測っていますが、家庭血圧を毎日計り続けるコツは、歯磨きと同じですね。長く続けていくためには、特別な儀式ではなく、毎日の当たり前の習慣にしていくことが鍵だと思います。また、そうして貯まったデータを、専門家がきちんと分析して、利用者だけでなく、社会全体で成果を共有できると嬉しいですね。
 白崎さん、今日は、よいお話をありがとうございました。


※今回は、「歳を重ねるごとに素敵になる」をビジョンに掲げる一般社団法人「66Love協会」様とご一緒にセミナーを実施しました。ありがとうございました。
 
編集後記にかえて
菊池夏樹
高松市菊池寛記念館名誉館長/
(株)文藝春秋社友

 
 私は、7年前65歳の時に高血圧と診断された。父親の看護をしていた時のことだった。それ以来、循環器系の主治医に、月に一回高血圧の薬を貰う度に血圧測定をしてもらっている。高血圧が認知症の原因にも成り得る、ひいては脳卒中や心房細動の原因にも、という白崎さんの話を聞けば、家庭血圧測定が重要だなと思う。家にもオフィスの机の上にも血圧計があるのだが、これらを駆使して自分の身体は、自分で守らねばならぬと再認識をした。