健康おせっかい倶楽部
 

情報素材料理会<第89回> 

ウエアラブルと
ビッグデータの今

~24時間「健康」が見える時代~

 

講師:藤本 幸一氏

オムロン ヘルスケア株式会社
データヘルスケア事業本部 コネクテッド
デバイス事業部 副部長≪国内エリア統括≫
 

 

講師:白崎 修氏

オムロン ヘルスケア株式会社
データヘルスケア事業本部 コネクテッド
デバイス事業部 生体工学専門職 博士≪医学≫
 

 
 

講師:中山 健夫氏

京都大学大学院
医学研究科社会健康医学系専攻長
健康情報学分野教授
NPO法人EBH推進協議会理事長
 

 

司会:菊池 夏樹 氏

高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友
日本文藝家協会会員 日本ペンクラブ会員
ディジタルアーカイブズ(株)取締役

歩数計がスマートフォンに内蔵され、心拍計や心電、脳波、血圧計のポータブル化も加速しています。医療・健康機器の大手メーカーであるオムロンヘルスケア社も、血圧計を始めとしてさまざまな機器の小型化を進める一方、データのオープン化、ネットワーク化に取り組んでいます。同社の藤本幸一氏と白崎修氏、そして京都大学大学院教授の中山健夫先生に、ウエアラブル機器を通じて健康を「24時間見守る」最新の取り組みについてうかがいました。

 
【菊池】私は今71歳です。実は毎日、オムロンさんの機械で血圧をはかってメモしています。正直に言います。大変です。最新の血圧計はずいぶんと小型化され、記録も楽になってきたようです。オムロンヘルスケアの藤本さん、白崎さん、よろしくお願いいたします。
 
血圧計で取り組む社会課題

【藤本】オムロンヘルスケアの藤本と申します。よろしくお願いいたします。最初に、オムロン・グループの理念を紹介させてください。さまざまな社会課題を解決する、ソーシャルニーズを創造して事業を広げていく、これが創業者の理念でした。その理念を実現する技術が「Sensing」&「Control」+「Think」です。「産業」「生活」「社会」の領域の課題を解決するために、現場から必要な情報をとりだし(Sensing)、蓄積したデータと人の知見を用いて(Think)、現場にソリューションを提供する(Control)。今日ご紹介するヘルスケア事業は、「生活」領域において、高血圧由来の脳・心血管疾患の発症リスクをいかに低減するかという社会課題を解決する、その取り組みのひとつです。
 オムロンのヘルスケア事業は、本体から分社化した私どもオムロンヘルスケア社が担当しています。家庭用から医療機関向けまで多くの医療・ヘルスケア商品を提供していますが、一番の主力商品は血圧計です。電子血圧計を1973年に発売して以来、世界初となる様々な血圧計を世に送り出してまいりました。国内外での大規模な臨床試験でも多数活用いただき、1973年の発売から35年後の2009年には、累計販売台数が1億台に達しました。7年後の2016年には2億台を達成し、次の3億台も見えてまいりました。家庭で血圧を測る重要性、血圧を測る文化が広まってきたのだろうと思います。
 なぜ私たちは血圧という指標を中心に置くのか? その動機と根拠について、白崎から説明させて頂きます。
 
なぜ血圧に注目するのか?

 
【白崎】オムロンヘルスケアの白崎と申します。よろしくお願いいたします。なぜ血圧なのか? ひとつは医療費の問題です。今の日本の医療費はうなぎ登りで、中でも65歳以上の高齢者が占める割合が多い。その4分の1は心血管・脳血管疾患などの循環器疾患です。1950年代以降、日本人、特に男性の肥満が急激に進みました。肥満は脳、心臓、腎臓、血管にさまざまな疾患を引き起こしますが、特に注目すべきは「動脈硬化」です。血圧が高くなると動脈が傷む、硬くなってさらに血圧が上がる、さらに硬くなる、その悪循環の結果、病気を発症します。高血圧由来の病気として最近注目されているのは、実は認知症です。認知症には大きくアルツハイマー型と血管性とありますが、血管性の場合ほぼ脳卒中と同じメカニズムで発症します。しかし、最近になって認知症の6割以上を占めるアルツハイマー病も高血圧が大きく関係していることが分かったのです。もうひとつ、不整脈の一種である心房細動も注目されています。非常に不規則に心臓が拍動するため、血液が心臓の中で固まってしまう。固まった血液が頸動脈を経由して脳に行けば、すぐに脳卒中を発症します。
 
若年層の高血圧リスク

 
 高血圧が高齢者に多いのは間違いありません。しかし実は、30~40代男性の2~3割が高血圧です。しかも若い人ほど治療率が低い。心血管疾患がどれだけ血圧に依存するのか。高血圧で病気を発症するリスクは、実は高齢者よりも若い人の方が高く、若年層ほど血圧管理が必要です。たとえば、認知症の発症率を中年期と高齢期の血圧で比較したデータがあります。中年期から高齢期まで血圧が正常な人の認知症発症率を1としましょう。ずっと高血圧であれば発症率はおよそ7倍に達します。中年期は正常で、高齢期に高血圧になった場合は約4倍。問題なのは、中年期に高血圧で、高齢期に薬で降圧した場合です。発症率は6.68倍。ずっと高血圧だった人とほぼ変わりません。中年期の高血圧を放置すると、後で降圧しても手遅れなんですね。逆に、初期に高血圧を治療しておけば、大幅に発症を抑制できるというデータもあります。中年期の高血圧は、認知症発症の大きなリスクであることが分かってきました。
 
 

 
家庭血圧はなぜ重要か?

 
 病院で測る血圧(診察室血圧)と家庭血圧の値によって、血圧を4つのタイプに分けることができます。1つめは、病院でも家庭でも正常な正常血圧、2つめは、どちらも高い持続性高血圧。3つめは、病院で高血圧と判定されるが家庭では正常な場合で、白衣性高血圧といいます。このタイプはすぐに治療が必要なわけではありません。ではずっと安心かというとそうとも言い切れない。脳卒中の発症率を10数年に渡って追跡した研究によれば、持続性高血圧の方の発症率は1.6倍。白衣性高血圧の方は? 4~5年は正常な方と同じです。しかしその後、持続性高血圧の方を追い抜く勢いで脳卒中を発症します。境界領域の人が、徐々に高血圧になって発症するのではないかとも言われています。いずれにしろ、白衣性高血圧では将来高血圧になるリスクを否定できません。定期的な家庭血圧のチェックが必要です。最後の4つめは、病院では正常で家庭で測ると高い、仮面高血圧。4つのタイプで発症リスクが最も高いのは持続性高血圧ですが、実は仮面高血圧にも、それに匹敵するリスクが潜んでいます。目に見えず放置されることで、致命的な病気を発症するリスクが飛躍的に高まります。
 

 
変動する血圧


 家庭血圧の測定はその方の病態を正確に反映します。日本の高血圧学会のガイドラインでは、病院で測る血圧(診察室血圧)による高血圧の診断基準は140/90mmHg、家庭血圧では135/85mmHg。この値以上であれば高血圧と診断されます。診察室血圧に関わらず、家庭血圧を評価し、診察室血圧と差がある場合は家庭血圧の値を優先します。こうしたガイドラインで示される診断基準は、基本的には安静時の血圧を前提としています。安静時血圧については過去に膨大なデータがあるので、それにもとづいて治療戦略が立てられるんですね。
 一方で、私たちが取り組むウエアラブルでの測定技術の開発においては、安静時ではない、日常生活のさまざまなシーンでの血圧変動にいかに対応するかが課題となります。血圧変動にはいくつかの要因があります。まず、季節。一般に寒い冬は血圧が上がり、夏は下がる傾向にあります。しかし、年間を通じてほとんど変化しない方も中にはいらっしゃいます。個人差があるんですね。曜日ごとの変動もあります。月曜日が一番高く、週末に向かって徐々に下がっていく「マンデー・サージ」と言われている現象も多く見られます。月曜の朝に心臓への負荷が一番大きくなり、脳心血管イベントの発症も月曜の午前中が一番多いという報告もあります。夜間の血圧も注目です。夜間血圧は、病態や将来の発症リスクを最も表すと言われています。夜間血圧は昼間から10~20%下がるのが正常で、下がらない場合は疾患発症リスクも増大します。
 睡眠時無呼吸症をご存じでしょうか? 要因の1つは肥満、就寝中に気道がつまって呼吸が止まる。最大2分止まる場合もあります。これが脳や心臓に大きな負荷をかける。そこで、呼吸が止まったのを察知し、その瞬間に測定する血圧計を開発して実験しました。すると、通常120~130ぐらいの血圧が一時的に180、さらには200ぐらいまで一気に上昇します。「スリープサージ」といいます。こうしたサージは、特定の時間での定期的な測定ではなかなか分かりません。血圧は、生理学的な条件で変化すると同時に、気温や騒音など環境によっても常に変動します。さまざまな要因での血圧変動をとらえるためには、変動を察知したその瞬間に測定する仕組み(トリガ血圧モニタリング)が必要になります。こうした仕組みを実現する、ウエアラブル機器の進化とデータ活用の取り組みについて、藤本よりご紹介します。
 
常時着用から連続測定へ


【藤本】血圧は1日に10万回、1拍ごとに変動していますので、1日数回の測定ではその変動やリスクをとらえることができません。測定の頻度をいかに高めるか、そして重要な夜間の血圧をいかにとらえるか、血圧計の進化はこの技術革新の歴史です。2016年、常時手首につけられるリストバンド型の血圧計をアメリカで発売しました。引き続きコンパクトなモデルのリリースを予定しています。夜間血圧、活動量、睡眠も測定できて時計としても使える、データもスマホで管理できる「ウエアラブル血圧計」です。その先には、1日10万回の拍動ごとの血圧をすべて測定する「連続血圧計」があります。2枚のセンサーアレイを橈骨動脈という手首の動脈に乗せ、垂直圧をかけて測定します。すでに試作は完了し、イベントを予知して管理できる、ウエアラブルでの連続血圧計が現実のものとして見えてきました。
 



 
新たなエコシステムに向けて
 
 1人1日10万拍のデータが、血圧計で「Sensing」できるようになります。その大量のデータを、どのように「Think」し、そして「Control」につなげれば良いのか? 私たちは、2010年からウエルネスリンクというサービスを提供してきました。そのコンセプトは、自分たちでデータを集めてソリューションを提供するエコシステムの構築です。しかし現在のIoT/クラウド/ビッグデータ/AIの時代には、ひとつの企業のエコシステムよりも、「オープン化」によってこそ新しいサービスやビジネスが生まれるのではないか。私たちが集めたデータをいかに簡単に活用してもらうか。そのように舵を切って始まったのが「OMRON Connect」というプラットフォームです。デバイスコネクト、データコネクト、サービスコネクトという3つのモジュールで構成されていますが、戦略として大事なのがサービスコネクト。健康管理やダイエットなど他社のアプリと私どものデータが即座に連携されます。EBHさんの「健康おせっかい倶楽部」のダイエットアプリも、iPhoneのApple“ヘルスケア”アプリを通じて私どもの”OMRON connect”アプリとデータ連携されています。これからは、ドラッグストアや調剤薬局、さらには医療機関など様々な分野のサービスとの連携も積極的に進めたいと考えています。
 

 
ZERO EVENTS
~All for Healthcare

 
 「ゼロイベント」というソリューションについてご紹介しましょう。「ゼロイベント」とは、脳卒中や心筋梗塞など高血圧が原因で起こる重篤な疾患イベントをゼロにしようという取り組みです。目的のひとつは、高騰する医療費の削減という社会課題の解決です。今、30代以上の人口9000万人のうち4300万人が高血圧と診断されていますが、その60%、実に2500万人の方は病院で治療を受けていません。まずこの方達にきちんと血圧管理、健康管理、必要な治療をして頂く。そのために血圧のタイプをしっかりと同定し、その方にあった運動や食事、投薬のアドバイスを提供する。その取り組みを進めています。2010年から開始したMedicalLINKというサービスでは、高血圧患者と医師をつなぎ、血圧変動の可視化、分析、リスク判定、治療支援を続けてきました。これからは、AIを活用した、より賢い分析に基づくサービスへとさらに進化します。All for Healthcare、一人ひとりの、健康ですこやかな生活に貢献する取り組みを一層進めて参ります。
 
【菊池】ありがとうございました。中山先生、いかがでしょう?
 
【中山】非常に興味深いお話でした。私も、滋賀県長浜のコホート研究では中心血圧計を10年ぐらい前から使わせて頂いています。高血圧は一般の方にとっても身近な病気ですから、家庭血圧計はこれからますます重要になると思います。ちなみに、新しいウエアラブル血圧計は医療機器として承認されるのでしょうか? それとも健康機器として?
 
【白崎】血圧計は、家庭用でも病院内仕様でも、実はすべて医療機器としての認可が必要です。日本ではJIS、そして国際規格もあります。すべて同じ精度と規格を充たす必要があります。
 
【中山】血圧のデータが共有され、新しい価値を生み出すためには、個人情報保護の問題をクリアする必要がありますね。どこまでのインフォームドコンセントがあれば良いのかといった議論はありますか?
 
【藤本】匿名化が基本です。その上で、利用範囲について規約で合意していただく手順を踏みます。法的には問題ない使い方でも、やはりお客様の理解と承諾が重要です。日本では特に、メーカーとサービスプロバイダーが少しずつ合意をつくりあげていこうとしている状況ではないでしょうか。
 
【中山】研究もビジネスも、データを共有できないと次の段階にいくのが難しいですね。オプトインかオプトアウトかも含めて、データの共有と活用を実現できるようぜひ協力してやっていきたいですね。
 
【菊池】私が3年間、毎日血圧を測ってメモしていた労力は、これから少しは減るらしい、ということは分かりました。藤本さん、白崎さん、中山先生、ありがとうございました。
 
 

 
私の身体は、どこから見てもメタボ体型だが毎年の健診でメタボだと断じられたことがない。人間の身体の仕組みは不思議で、大昔食物が手に入るか否か判らなかった時代に餓死しないよう内臓の周囲に脂肪を貯めておくように出来ているらしい。現代でも、まだその構造は続いているようだ。齢70も過ぎメタボだと言われても、激しい運動も出来ないし、したらしたで他の部位が壊れる。寿命を考えるとメタボになっても仕方がない。が、どうも私の祖父や父の体型を思い出すと腹は大いにメタボだった。私の体型は遺伝のような気がする。