健康おせっかい倶楽部
 

情報素材料理会<第87回> 

ほんとうのところ
「糖質制限」
ってどうなんですか?

 

講師:森谷 敏夫氏

京都大学名誉教授/京都産業大学・中京大学客員教授/NPO法人NSCAジャパン理事長/NPO法人EBH推進協議会前理事長
 

 

講師:中山 健夫氏

京都大学大学院  医学研究科社会健康医学系専攻長 健康情報学分野教授/NPO法人EBH推進協議会理事長

 
 

 

司会:菊池 夏樹 氏

高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友
日本文藝家協会会員 日本ペンクラブ会員
ディジタルアーカイブズ(株)取締役

話題の糖質制限ダイエット。簡単に体重が落ちると評判ですが、基礎代謝が減り痩せにくくなる、体調を崩す、という主張もあります。糖質制限は健康に良いのか? 良くないのか? 運動生理学の専門家で「京大の筋肉」こと森谷敏夫先生とEBH推進協議会理事長で京都大学大学院教授の中山健夫先生にうかがいました。

 
【菊池】「糖質制限ダイエット」の話題を最近よく聞きます。米やパンなどの炭水化物を減らすダイエット方法です。簡単に痩せられるという話と、健康に良くないという話、両方を耳にします。いったい「糖質制限」は体に良いのか?良くないのか?森谷先生、いかがでしょう?
 
なぜダイエットをするのか?

【森谷】森谷です。よろしくお願いします。最初に、「なぜダイエットをするのか」です。これをしっかり考えないと、体重を減らす=ダイエット、OK! と思ってしまう。では、本来の目的は何か。「健康になる」ことです。体重を減らすことがゴールではありません。体の状態をチェックして、健康上のリスクがないか、あるとすれば、食生活や運動の習慣を見直して、より健康な体づくりをするきっかけとして行うもの、私はそう思います。
 ダイエットに成功するかしないか、アメリカの最新の研究で2つのポイントが指摘されています。1つ目は、本人がどれだけ強く肥満をコントロールしたいと思い、それを生活に取り入れたか。2つ目は、継続できること。減量のためにカロリー制限だけを重視する人の多くが、りんごや納豆などの単品ダイエットに挑戦し、続けられずに途中でやめてしまう。体や健康についての科学的な知識を持たず、減量だけが目的となる時、一番はまりやすいのが「糖質制限ダイエット」です。あるアンケートによれば、内科医の実に6割の方々が「糖質制限ダイエットは正しい」と考えておられ、その中の5割近い方々がご自分でも実行されているそうです。
 ここでもう一度、なぜ太ってはいけないのか、を考えましょう。肥満は病気のリスクを高めます。肥満したからだの何が問題なのか? 「脂肪」です。特におなかの「内臓脂肪」が増えすぎると、脂肪の周りに炎症が起こり、悪玉の物質が出てきます。脂肪や糖質をしっかりと代謝できなくなる「メタボリック・シンドローム」になります。その内臓脂肪を減らしてあげれば、悪玉物質は出てこなくなるので、病気のリスクは減る。だから、余分な脂肪を減らしましょう→痩せましょう、なんです。
 糖質制限ダイエットの問題点はここにあります。
 
糖質制限で「何が」減るのか?

 糖質を制限すると、確かに劇的に体重が減ります。2週間で2㎏、1か月で5㎏減る場合もあります。問題は何が減ったかです。実は、糖質制限ダイエットだけでは脂肪は余り減りません。減ったのは大部分が「水」です。
 低糖質ダイエットや一品ものダイエットが流行りですが、人間の脳は、糖質が主なエネルギーで、不足すれば肝臓や筋肉、脂肪に4倍の水と結合しているグリコーゲンを分解してブドウ糖に変換します。炭水化物を控えると体重が減るのは、分解したグリコーゲンの水分が出ていくためです。糖質が更に足らなくなると今度は筋肉自身を分解してブドウ糖を造ります。これを繰り返すと、脂肪は減らずに筋肉だけが削られて、逆に太りやすい体質になっていきます。これを続ければ、BMIは適正だが筋肉が落ちて体脂肪率が高い、いわゆる「隠れ肥満」になります。若い女性に非常に多い。僕の研究でも女子学生の50%が隠れ肥満(体脂肪率30%以上)もしくは隠れ肥満傾向(25~29・9%)でした。
なぜこうなるのか?人間の脳と筋肉は、大量の糖質をエネルギー源として使います。特に脳の場合、基本的に糖質だけをエネルギー源とし、1日に約400㎉を消費します。一方、体の4割以上を占める筋肉では、安静時の基礎代謝を1600㎉とした場合、少なくとも半分以上、800㎉以上の糖質がここで使われます。この代謝を維持するために、私たちの肝臓と筋肉と脂肪細胞には、糖質と4倍の水が結合したグリコーゲンという貯蔵物がとどまっています。だから人間の体はみずみずしく、そして重い。では、糖質制限をするとどうなるか。
 1992年に発表されたアメリカの論文で、1日の摂取エネルギーを405㎉に制限(4日間)した研究事例が報告されています。脳だけでも1日400㎉のエネルギーが必要ですから、脂肪やたんぱく質はもちろん、炭水化物がまったく足りません。何が起こるか。まず、肝臓にあるグリコーゲンが分解されて糖質が使われ、その4倍の水が出ます。体を動かすエネルギーが足りないので、筋肉にあるグリコーゲンが分解され、また4倍の水が出ます。4日間を通じてグリコーゲンが分解され続け、都度4倍の水が体から出ます。結果、体脂肪の減少はほとんどなく多い場合で体重が4~5㎏も減少したのです。これが、糖質を制限した場合に起こる体重減少のメカニズムです。糖質を減らせば、体から水が出るので体重が減る。ただし、2㎏減った翌日にケーキやご飯を食べれば、翌日にはまた1㎏体重が増えます。糖質をとれば減ったグリコーゲンを合成するために4倍の水が体に貯蔵され、また劇的に体重は増えます。まさに「水の泡ダイエット」、僕はそう言っています。
 

 
食欲と自律神経

 人間の体重をコントロールしているのは何か? 「自律神経」です。たとえば、太らないために「野菜から食べましょう」という意見がある。野菜、それからタンパク質、最後に糖質/炭水化物を少しだけ。しかし、この食べ方では血糖値が食事中に上がってきません。血糖値が上がらなければ、脳は自分の栄養がまだ来ていないと判断するので、炭水化物の前にどれだけ野菜を食べようがエネルギーの高い脂肪やタンパク質をとろうが、食欲を抑制するホルモンが出てこない。血糖値が上がることで脳が満腹感を感じ、はじめて食欲が抑制されます。野菜とタンパク質と炭水化物を、一緒に、混ぜながら食べて、血糖値を徐々に上げていく。早い段階から脳に栄養が来ていることを伝えることで、自律神経が機能して、食べ過ぎる前に箸が止まります。
 興味深いダイエット実験があります。肥満した女性106名を、同一のエネルギーとタンパク質で、低炭水化物食+高脂肪食を食べるグループと、高炭水化物+低脂肪食を食べるグループに分けて、1年後にどのように変化したかを追跡した実験です。どちらのグループも、1年後には体重13㎏減、1か月あたり約1㎏の体脂肪減少という理想的な結果が出ました。しかし、抑うつや気分障害などの感情プロフィールについては、有意な差がありました。低炭水化物+高脂肪グループの方が、高炭水化物+低脂肪グループよりも、気分障害や怒り、抑うつ、落ち込みなどの心理状態をあらわすスコアが明らかに悪くなりました。糖質制限1年。心理状態が、どのように変化するかを示唆する結果です。
 
糖質制限のリスク

 糖質を減らすリスクには、さまざまなエビデンスがあります。朝食、特に炭水化物を食べない場合、脳卒中で亡くなるリスクは36%上昇する。大阪大学の研究成果です。朝の欠食は、肥満そして高血圧につながる。人間の脳は24時間エネルギー=糖質を使っているので、朝は低血糖状態です。朝食を抜くとさらに血糖値が下がる。体は一気に飢餓モード。できるだけエネルギーを使わない状態にスイッチする。昼食を食べる。備蓄しろ! 結果、確実に脂肪が増えます。一方で、朝の低血糖時には、脳のために血糖値をあげるホルモンがたくさん放出されます。血管が収縮、血圧が上がる。低血糖で、筋肉のエネルギーとなる遊離脂肪酸が増え、血液はネバネバ。グリコーゲンも底をついて脱水状態、血中水分も少ない。結果、血管が詰まる、破裂する。脳卒中や心筋梗塞の確率が飛躍的に増えるわけです。
 18歳以上、4451人を対象にしたアメリカの研究では、1日の炭水化物摂取量が総エネルギーの47%以下の場合に肥満リスクが高く、47~64%の摂取量の場合最もリスクが低いという結果が報告されています。もうひとつ、男性44000人を20年間、女性88000人を26年間追跡した調査には、炭水化物を35%しかとらなかった人の死亡率は、60%をとっていた人の1・5倍であるとのデータもあります。
 みなさん、炭水化物、糖質を制限したいですか?
 
理想のエネルギー・バランス

 炭水化物の摂取量、WHOの指標では60%、日本の農水省でも55~65%が推奨されています。なぜでしょう? 炭水化物は、人間が摂取する中で一番クリーンなエネルギー源です。ブドウ糖は6倍の酸素と化学反応を起こしエネルギーを作り出し、炭酸ガスと水になって完全燃焼します。水は再利用可能、炭酸ガスは口から放出されます。炭水化物を35%に抑えるなら、残りのエネルギー65%を脂肪とタンパク質からとらなければならない。脂肪の分解には炭水化物の80倍の酸素が必要で、とりすぎれば活性酸素がたくさん出る、太る、満腹感もこない。タンパク質の分解でも多くの活性酸素が出ます。脂肪とタンパク質の摂取量が多いほど、肥満や病気、死亡のリスクが高まる。炭水化物60%、脂肪とタンパク質をそれぞれ20%、これが、健康的な栄養摂取バランスなんです。
 
脂肪はどこへ

 余分にとり過ぎたエネルギーは、体内でどのように代謝されるのか? スイスの研究者が(ラットなどの動物ではなく)実際の人間の代謝を24時間測定しました。タンパク質と糖質は、その日のうちにほとんどが代謝されました。糖質の一部は脂肪に合成されますが、普段の1・6倍余分にとっても、人間の肝臓では1日10g以上の脂肪は合成されませんでした。一方で脂肪は、エネルギーロスなくそのまま脂肪として蓄積されました。
 


 1946年に日本人が摂取していた脂肪の量は、摂取エネルギー全体の7%でした。2000年以降は26%、4倍近くまで増加します。脂肪摂取が増える、動かない、そのまま体脂肪に合成される、メタボになる。考えるべきなのは、何を、どう食べるかです。同じエネルギーでも、炭水化物を中心とした食事の方が高脂肪食より満腹感が持続します。さらに大事なのは、食事をして栄養を分解、輸送、貯蔵する時にもエネルギーが使われる効果です。食事誘発性熱産生。炭水化物食では1回の食事で熱産生が5~10%も上昇します。ここでも、高脂肪食より炭水化物食の方が消費されるエネルギーの量が多い。ただし、朝食を抜いて昼に2食分を一気にとってはいけない。朝食を抜いて飢餓モードに入ると、人間はできるだけエネルギーを節約しようとして、熱産生が上昇しなくなります。朝食と昼食をきちっと食べた方が太りにくい。我々が実際に実験し、学術論文として発表しました。
 

 
筋肉、食べますか?

 2017年、ボリビアに住むチマネ族の健康状態と生活について、調査結果が発表されました。一般的な国の70歳以上の人は、50%が動脈硬化を起こしています。チマネ族は8%でした。悪玉コレステロールは非常に低い。炭水化物72%、タンパク質と脂肪各14%、食物繊維が多く、低脂肪で飽和脂肪酸の少ない食事をとっている。狩猟時間は平均8時間、18㎞を移動。男性7~8時間、女性4~6時間の身体活動を行い、日中の休息は10%以下。世界で一番、動脈がきれいで死亡率の低い民族です
 文明と文化が進むスピードに、私たちの体の適応は追いつかない。いずれ体は自然に淘汰されるでしょう。その過程で、さまざまな障がい、肥満や糖尿病、心臓病、がんなどが出てきました。未来には、炭水化物を食べなくても問題なく生きていける人が出てくるかも知れない。しかし、今のところ私たちの体はそうはなっていません。糖質制限ダイエットで体重は落ちますが、筋肉も必ず失われます。筋肉は、健康に生きる上で大事な臓器です。それを自ら食ってしまうのはどうなのか、そう思います。
 
【菊池】森谷先生、ありがとうございます。中山先生、いかがですか?
 
【中山】私自身は、糖質を「過剰に」制限するダイエットには疑問を感じています。糖尿病学会も、糖質制限食については2014年にかなり否定的な見解を出しました。専門で関わっている方たちは特に、今の「過剰な制限」の流れはかなり注意してるのかなと思っているのですが、いかがでしょう?
 
【森谷】糖質制限ダイエットが広まったきっかけの1つは、ある学会で「認知症は脳の糖尿病である」という発言があったことかな、と想像します。脳細胞がエネルギーである糖質を取り込めなくなると、その細胞は死んでしまい、認知症の原因となりうる可能があります。脳は糖質だけを使っているわけではなく、飢餓の状態になればケトン体も使える。そこでケトン体が作れる中鎖脂肪酸がいっぱいあるココナツオイルを処方したところ、認知症が劇的に改善したという症例です。そこから、炭水化物がなくても脳は生きていける、脂肪酸から十分にエネルギーを供給できる、という流れが出てきました。しかし、それは一時的であって、脂肪だけでエネルギーをとることは体への悪影響が大きい。そういう処置が必要な人には有効でも、一般の方が追随すべきものではないと僕は思っています。
 
【中山】もう1つ興味深いのは、糖質不足と感情プロフィールの関係です。糖質の不足と気分障がいや怒りの感情が関連している可能性は無いとは言えませんね。いろいろな臨床試験でも、もっと気分や感情を評価の指標に加えて、検討することが必要と改めて思いました。
 
【森谷】心電図と自律神経の解析では、高脂肪食を食べたときに、交感神経活動が非常に高くなりました。心臓にとっても、非常に不整脈が出やすい状態をつくりだすことが分かっています。通常の女子学生でそうですから、心臓が弱ってきてる、動脈硬化が進んでる方が高脂肪食をとって炭水化物を減らしてしまうと、心臓に対しての負担も非常に大きくなる可能性があります。
 
【菊池】私もおなかは出ていますが、バス通勤とドラムのおかげか、先日の健康診断は良好な結果でした。食べ物と食べ方についてもよく考えたいと思います。本日はありがとうございました。
 
 

 
私は、少し前チョコレートが身体に良いと言われ、食べてみたが、だんだん脳がもっともっとと言いだした。その結果、糖尿病予備群になってしまった。“過ぎたるは、及ばざるがごとし”の格言通りである。チョコをやめると正常値に戻った。71歳にしては、健康である。ちょっと腹は出ているが、ダイエットする気は無い。運動は、過激なことは出来ない。交通手段に車をやめ、お得なシルバー・パスを使ってバスに乗る。楽しい! また、昔やっていた楽器のドラムを再開し練習しだした。これも楽しい! 週3~4回、2時間ずつの楽しみ。健康体になってきた。