おせっかい倶楽部
 

情報素材料理会<第86回> 

Apple WatchとiPhoneで変わる
健康の未来

 

講師:廣瀬 克哉 氏

法政大学副学長/法学部教授
NPO法人EBH推進協議会事務局長
 
 

 

司会:菊池 夏樹 氏

高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友
日本文藝家協会会員 日本ペンクラブ会員
ディジタルアーカイブズ(株)取締役

ウエアラブル機器とスマートフォンの、健康・医療分野での活用が加速しています、国内スマホ市場の半数を占めるiPhoneも、Apple Watchを中心に様々な健康機器との連携が進んでいます。iPhoneとApple Watch。健康・医療における最新の取り組みを紹介します。

 
【菊池】iPhoneが発売されて今年で10年だそうです。多くの人が、あらゆる場所でスマホに見入る時代です。今日は、iPhoneとApple Watch、健康と医療の未来について考えます。最初に、長年Apple製品を使い続けておられる法政大学副学長の廣瀬教授にお話いただきます。
 

Apple
 
 
【廣瀬】ご紹介の通り、Apple製品を30年以上使っている廣瀬です。Mac PLUSから始まって、デスクトップ型Macを14台、ノート型8台。そして、iPod、iPhone、iPad、iPad mini、Apple Watch。全部Appleです。なぜAppleにのめりこんだのか? 簡単に言えば、「心地よかった」から。好きなキャッチフレーズがあります。「The Power to be Your Best(あなたのベストを引き出す力になる)」。自転車は、人間のフィジカルなアクティビティを拡張してくれる。身の丈に合った、自分の肉体性や身体性を保ちながら、それを拡張する。私たちの製品は、知的な分野でこれを実現する。スティーブ・ジョブズの言葉です。パーソナルな力を伸ばす、身の丈に合ったものを作り続けてきた会社、それがAppleだと思います。
 何よりの特徴は、インターフェイスの洗練。時々のテクノロジーを使いながら、いかに快適かを最大限追求した設計がなされている。たとえばマウス。机の上で物理的に動かすと、それに連れて画面上のポインターが動く。概念的にはこれだけです。Windowsでも概念は同じ。でも使ってみると、MacとWindowsの「体験は違います。何が違うのか。「加速度」への反応です。マウスをぱっと動かせば、ポインターもぱっと動く。じっくりと動かせば、じっくりと動きます。それが感覚的にしっくりくる。自然な作り込み方が絶妙でした。概念は同じだけれど、指や手の身体感覚に追随させる調整の徹底度合い。それによって、使った感覚は別物になるということです。
 それから、「もの」としての魅力。持つこと自体の喜びがあります。いつでも手元で時間を確認したい、そうして腕時計をつける習慣は生まれましたが、スマホが普及した今、機能として見ればもう必要ない。しかし、高級な腕時計は今も好評で、実際よく売れるそうです。「もの」 として持つことへの喜びに、腕時計という商品の役割は移っているのでしょう。
 Apple Watchの魅力については、正直、僕自身まだよく見えていません。ただ、最初にMacと出会って以来そうだったように、「なるほど、そうか、その手があるか」という発見をして、驚き、だんだんと慣れて、いつしか自分の日常になって、そういうものだったと振り返るのだろうと思います。「ユーザーに聞け」というのは、半分は正しい。でも半分は嘘です。既存のサービスや体験について、どれが嬉しいかをコメントすることはできます。しかし、たとえばApple Watchの裏側のセンサーで読み取れること、それがiPhoneのネットワークとつながると何ができるのか? そうしたことは、ユーザーではなく、Appleからの提案が必要です。先ほどのマウスのように、加速度への反応を研ぎ澄まし、ぎりぎりまで調整し、磨き抜かれたものが、ヘルスケアにおいても普及していくのだろうと思います。Appleが、健康と医療という世界でどんな提案をしてくれるのか、それを楽しみにしています。
 

 
【菊池】私の時計は1か月に1〜2分狂います。その都度直して楽しんだりしています。人間とコンピューターの融合はまだまだな気がしますが、パーソナルな力を拡張してくれるという、Apple製品には確かに魅力がありそうです。健康と医療の未来に、Appleはどんな提案をしてくれるのでしょうか?
 


※Apple社の医療と健康における取り組みを独自に構成(文責:編集部)

 
 Appleのヘルスケアでの取り組みを編集部で独自にまとめました。戦略は4つです。
 1つ目は、“iPad for doctor”|電子カルテを白衣のポケットに。電子カルテは、今パソコンで運用されています。これをiPadに置き換えられないか。iPad miniは、実はドクターの白衣にぴったり収まるサイズです。iPad miniさえあれば他に何もいらない。患者さんへの説明もこれ1つでできます。救急時の緊急用デバイスとしても活用できます。
 2つ目は、PHSをiPhoneに。国内ではまだ400万台のPHSが使われています。その80%が病院内。サポートはまもなく終わり、作っているメーカーもほとんど残っていません。これをiPhoneにすれば、看護師さんの仕事も、iPhoneだけでこなせるようになります。たとえば、薬剤投与時の3点認証。患者さんの腕に巻かれたバーコード、注射器、薬剤の3つをリーダーで認証します。今はリーダーのためだけにパソコンが必要ですが、iPhone1つでこれができます。出退勤管理もOK。チャットやカメラが使えれば、より迅速なコミュニケーションも可能です。プラス、Apple Watch。ナースコールがiPhoneで鳴る。両手が離せない。Apple Watchで「何○何号室、今すぐ行きます」ってできます。未来の病院の姿じゃないでしょうか。
 3つ目は、ベッドサイド。病室のベッドサイドにはテレビがあります。iPadを置きましょう。入院時には手引きやガイドが、退院時には満足度アンケートが配られます。すべてiPadに入ります。そしてエンターテインメント。NTTドコモの「dマガジン」なら、1エリア10台まで5080円(https://www.docomo.biz/html/service/biz_plus/product/dmagazine.html)で1か月雑誌が読み放題。民放局のオンデマンドチャンネル。生放送以外なら1週間前までの番組を見ることができます。ガイダンスやアンケートに加えて、雑誌読み放題やオンデマンドチャンネルがあれば、テレビの機能を拡張できます、亀田メディカルセンターでの導入が進んでいます。
 4つ目は、患者さんの見守りです。さまざまな健康データをiPhoneに保存できます。対応した体重計や血圧計なら、測ると同時にiPhoneにデータが入ります。そのデータを患者さんが許可してクラウドに上げる。上がったデータを病院側が診る。でも、患者さんは高齢者ばかりで、誰もスマホを使えないよ。承知しています。どうするか? Appleのジーニアス・バーと同じサポートカウンターを、病院の中につくりましょう。サポート? 何を? スマホとタブレットの使い方です。病院がスマホとタブレットを教える必要があるのか? あります。在宅医療の際に、間違いなく役に立つからです。最初の取り組みが、愛媛県のHITO病院でスタートしました。(http://hito-medical.jp/about/news/2017/0623-2.html)その名も「HITO Bar」です。何も売っていません。病院のスタッフがiPhoneや血圧計の使い方を教えてくれます。
 

 

Apple Watch
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  Apple Watch、何が便利ですか? この質問には違う答えが返ってきます。電話もメールもとれる、ポケモンGOも捕まえられる。それぞれの方に、自分の便利があります。ウエアラブル製品の多くは、活動量のトラッキングという単機能です。Apple Watchは? 多目的です。  デバイスをやめる「離脱率」という指標があります。単一機能型ウエアラブル機器のユーザーは、半年後に多くが離脱します。Apple Watchユーザーの離脱率は非常に低いです。なぜか? おもしろいから、ではないでしょうか? ヘルスケアでは大事なことです。楽しくて、おもしろくなければ続かない。楽に配布できる、安くつけられるかではなく、楽しんでつけられるかどうかです。
 Apple Watchは、あまり触る必要がありません。電話やメッセージ、Apple Watchが勝手に知らせてくれます。だから、腕時計として使ってください。それだけで健康になります。なぜ健康になれるのか? 腕に巻くと、3つのリングが動き始めるからです。時間を見れば、このリングが目に入ります。真ん中の水色は、立ち上がった方が良い時間を計測してくれます。座りっぱなしだと「ちょっと立ってください」と言われます。真ん中の黄緑は、強い運動、速歩き以上の運動をトラックしてくれます。外側の赤いリングが、消費したエネルギー。1日にこのぐらい立った方がいい、速く歩いた方がいい、エネルギーを消費した方がいい、Apple Watchがすべて教えてくれます。リングを全部1周させて1日を終了してください。あとは自由です。でもリングだけは1周させてください。それが健康の指標です。指標は誰がどう決めるのか? あなたの年齢、身長、体重から、Apple Watchが勝手に決めてくれます。簡単に1周できる人にはより厳しい目標に、なかなか1周しないな、という人には勝手に緩めてくれます。腕に巻くだけ、それだけで行動変容が起こります。
 岐阜県関市が、市民のメタボ対策としてApple Watchの貸し出しを開始しました。(https://www.city.seki.lg.jp/cmsfiles/contents/0000011/11040/01.pdf)メタボ判定の方が保健センターに行くと、8〜10か月間貸し出してくれます。愛媛県では、職員の方にApple Watchを配布して、3か月リングを一周させる取り組みを実施しました。(http://www.pref.ehime.jp/h10780/tikyosaiitkatuyou/itkenkouzukuri.html)多くが体重減という結果だそうです。オフィス家具の岡村製作所でも、興味深い取り組みをしています。(http://www.okamura.co.jp/company/topics/office/2017/wearable_device.php)社員 が、センサー付き眼鏡でストレス度を、Apple Watchで体の健康度を測定しながら働いています。計測データを、心も体も健康になるチェアやデスク作りに活かそうという試みです。
 

 

Research Kit
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 Research Kitという、医学研究への取り組みがあります。医学研究で一番大変なのは、参加者の数を集めること。百人、千人、一万人をどうやって集めるのか? iPhoneユーザーに協力してもらえないだろうか。Appleが提供しました。10億人のiPhoneユーザーが世界中にいます。その数%の方に協力してもらえれば、迅速にデータを集めることができる。今、研究機関や大学、病院の医学研究で、少ない予算とリソースにもかかわらず、かつてないスピードと規模でデータが集まっています。
 Research Kit、実は日本が先導しています。さまざまな大学や研究機関が活用しています。たとえば順天堂大学の「インフルレポート」。(1)アプリを起動する、(2)インフルエンザに罹った/ワクチンを打った、いずれかのボタンを押す。iPhoneがGPS情報を送信し、全データが「インフルマップ」に反映され、インフルエンザ罹患率がリアルタイムに表示されます。国が提供するデータと実際の状況の相関を研究するために、内科医の方たちが共同で作りました。聖路加大学の「Babyうんち」も画期的です。胆道閉鎖症の早期発見を目的に、赤ちゃんのうんちのデータを集めています。生後2週間から1か月の赤ちゃんのうんちをiPhoneのカメラで撮影すると、アプリがうんちの色を解析して病気の可能性を判定します。赤ちゃんのうんちの色という、ビッグデータ化しにくいデータを集める初めての試みです。
 健康と医療の世界で、Apple Watch、iPhone、iPad、Research Kitを使った様々な取り組みが進んでいます。
 

 
【菊池】私が持っている携帯電話、実はガラケーです。明日、iPhoneに替えようか、悩みが増えました。本日はありがとうございました。
 
 

 
LINEは出来るの? 最近友達たちからよく訊かれる質問だ。私は、未だガラケーを使っているので、出来ないよ! と答えると「何だ、仲間外れだな」と言われた。私がスマホを使わないのには特に理由はない。ただ、地下鉄に乗っても、何かの列に並んでも皆スマホに熱中しているのを見ると悲しくなる。そこまでする用事があろうはずは無く、ちょっとした病に冒されている気がするからだ。人間がコンピュータを使うのではなく、使われているようで悲しい。また、タイミングを逸したのかも知れない。「スマホを持たずして、スマホを語るなかれ」と言われるのも哀しいが…。