健康おせっかい倶楽部
 

情報素材料理会<第85回> 

脳とIoTの最先端
感情の見える化はどこまで来たか?


 

講師:中山 健夫 先生

京都大学大学院 医学研究科社会健康医学系専攻長 健康情報学分野教授、NPO法人EBH推進協議会理事長



 

講師:伊藤 菊男 氏

ニューロスカイジャパン株式会社 代表取締役
 

 

 

司会:菊池 夏樹 氏

高松市菊池寛記念館名誉館長
(株)文藝春秋社友
日本文藝家協会会員 日本ペンクラブ会員
ディジタルアーカイブズ(株)取締役

わたしたちの脳は何をしているのか? その謎をとく試みが加速しています。「感情や心を見える化すると、健康と医療において何が始まるのか?」その恩恵と課題について、脳波センサー開発元であるニューロスカイジャパン代表取締役の伊藤菊男氏と、EBH推進協議会理事長で京都大学大学院教授の中山健夫先生にお話いただきます。

 
【菊池】今回のテーマは、私たちの「感情や心の見える化」です。とりわけ健康や医療分野での、その可能性について議論したいと思います。まず、ニューロスカイジャパン代表の伊藤菊男社長からお話をいただきます。
 
“簡単”脳波計へのチャレンジ
 
【伊藤】ニューロスカイの伊藤でございます。今日私からは、私たちが開発した脳波センサーをベースに、脳、そして感情の見える化について、その現状と可能性をお話させて頂きます。ニューロスカイ社は、アメリカとロシア、3人の脳科学者のプロジェクトとしてスタートしました、設立は2004年。本社はシリコンバレーにあります。アメリカ、台湾、中国、香港、そして日本を営業と開発の拠点に、脳波および心電をはかるセンサーやモジュール、解析用アルゴリズムの開発を進めています。
 

 
 脳波は、脳が発する電気信号です。心と体の状態によって変化し、大きく次の4つに区別されます。(1)深い睡眠状態の時のΔ(デルタ)波、(2)瞑想していたり眠気がある時のθ(シータ)波、(3)リラックスしている時のα(アルファ)波、(4)目覚めている、興奮したり集中している時のβ(ベータ)波。ちなみに、みなさんはご自分の脳波を測った経験はありますか? 実は意外に少ないのではないでしょうか? 人間の一番大事な部分である脳、その状態を計測する機会に私たちはあまり恵まれていません。なぜか?理由の一つは、データの解析が難しいこと。もう一つは、脳波計が高価であることです。病院で使われている脳波計の価格は、四、五十万円から数百万円です。MRIに至っては億の単位になります。誰でもどこでも、正確に測定できて、かつ安価な脳波計ができないだろうか? 脳波を簡単に測る環境を提供したい、それが私たちのチャレンジでした。
 

 
 脳波は、非常に微弱な電気信号です、病院ではノイズのない環境を整え、たくさんの電極を脳につけて、アナログ信号を計測装置で処理を行い、デジタル変換後にデータとして取り出します。こうした信号処理と増幅、変換までのプロセスを、私たちは一つのチップの中に集積しました。この脳波センサーの開発によって、「価格の安い」脳波計を提供できるようになりました。
 
脳波で動かすおもちゃとゲーム市場へ
 

 
 私たちの最初のマーケットは、おもちゃとゲーム市場でした。「スター・ウォーズ “フォーストレーナー”」という、チップの入ったヘッドセットを頭につけ、念じるとボールが浮いてくるおもちゃが最初の製品です。集中度があがると、ある帯域の脳波が変化する、その変化量を算出し、プレイヤーの集中度を伝えることでボールを動かします。スター・ウォーズというブランドもあり、かなりのヒットを記録しました。この商品以降、対戦型ゲーム、脳波でネコ型の耳を動かす「Necomimi」、ADD/ADHD(多動性障害)改善用ゲームなどを発売、販売合計数も120万台を超えました。
 センサーの応用分野として、最初におもちゃとゲーム市場を選んだのには理由があります。本来、医療と健康での応用が期待される技術なのですが、この領域への導入にはさまざまなハードルがあり、時間もかかります。私たちはテクノロジー・プロバイダーですので、開発した技術を、色々な方に早く、広く知って頂く必要がありました。様々な方に知って頂き、まず使って頂こう、その判断のもとに、まずおもちゃとゲームの市場に参入したのです。最初の2つのゲームが発売された当時、お客様からメールと手紙をたくさん頂きました。多くは、障害があって手足を動かせないお子さんのご家族からでした。手足が動かないのでおもちゃやゲームで遊んだことがなかった。初めて遊ぶことができた。こうした反響にも支えられ、この市場での導入を進めていきました。
 
脳波のアルゴリズム
 
 おもちゃとゲームでも使われた、心と体を指標化する脳波のアルゴリズムをご説明しましょう。
❶Attention…集中度。β(ベータ)波帯域を中心にした変化量を測定。おもちゃやゲームでトリガーとして使われているもの。
❷Meditation/Relax…瞑想度、リラックス度。α(アルファ)波の変化量を測定。
❸Mental Effort…活動度。車のエンジンの回転数やパソコンのCPUの活動率と同様の指標。
❹Familiarity…慣れ度。刺激や情報に対して考えずに反射的に行動できる度合い。
❺Appreciation…興味度。好意、興味を持っているレベル。
❻Positive/Negative…積極度。ポジティブかネガティブか。
❼E-Tensity…強度。脳波の強さ。脳の興奮度。
❽Emotions…喜怒哀楽。❻と❼からのマッピングによる指標。
サードパーティの方々が作られたアルゴリズムもあります。
❾Cognitive Prepareness…心構え・心の準備状態。
Alertness…警戒心。
⓫Creativity…創造力。
⓬Drowsiness…眠気。
 
「ブレインマシンインターフェイス(BMI)」としての応用
 
 脳波センサーを活用していただく領域について、私たちは大きく二つを想定しています。一つ目は「ブレインマシンインターフェイス(BMI)」。機器に対して人の気持ちや感情を伝えるインターフェイスとして使っていただくこと。二つ目は「ニューロフィードバック」。脳のパフォーマンスをモニターすることで病気の早期発見を可能にするようなサービスです。
 BMIとしての応用には、「娯楽性」「快適性」「安全性」の領域があります。「娯楽性」では、おもちゃやゲームに加えて、音楽での活用に注目しています。何万曲もある曲から自分にあった選曲をするのは意外に大変です。今の気持ちを脳波からフィードバックし、自動選曲してくれるサービスを開発中です。「快適性」では、マッサージチェアへの取り組みがあります。マッサージしてほしい部位は個人差がありますので、快不快をフィードバックしていくような機能の実装を進めています。そして、居眠り運転防止など「安全性」への応用。高齢者や障害者の方のサポートもあります。昨年、都立神経病院と日本ALS協会の協力を頂いて、ALSの患者の方向けに、脳波計とタブレットを使い、患者の方が今どう感じているのかを見て頂けるツールを開発しました。
 
「ニューロフィードバック」としての応用
 
 ニューロフィードバックの応用のメインは、健康と医療です。マインドフルネスや睡眠改善。ストレスとうつ状態の可視化。ADD/ADHD(多動性障害)の方に向けた改善プログラムなどに取り組んでいます。一つ、認知症の早期発見への私たちのアプローチをご紹介しましょう。視空間認知能力=空間を3次元的に認知する能力、がどれだけあるかを指標化し、脳波によって認知能力のレベルを診断しようというものです。被験者の方には、3Dをベースとした簡単なゲーム・アプリを3~5分やっていただきます。3Dの映像というのは、脳をだます仕組みで作られていますので、認知機能が低下すると一部3Dに見えなくなる状態が発生します。3D認知能力のスコアによって認知症の診断につなげることができるよう、今、大学や病院の方々の協力を頂いて開発を進めています。
 教育とスポーツの領域にも様々な可能性があります。台湾の小中学校では、Mental Effort(活動度)を指標として、個々の生徒のレベルに最適化した教育プログラムの実験を進めていますし、アメリカのアーチェリーのオリンピック代表チームでは、脳波計を活用したメンタル・トレーニングを導入し、メダル獲得にもつながりました。
 被験者が実際にどう感じているかをリアルタイムにフィードバックできる、脳波計ならではの特性を活かしたマーケティングでの応用も広がっています。新メニューの試食会、自動車の試乗会など、さまざまな商品のモニタリング・ツールとして活用されています。
 私たちは、脳波の測定に加えて、心電を手軽に測定するツールも提供しています。心と体を“簡単に”見える化できる技術を広めることで、命を測り、守ることに貢献していきたいと思っています。
 
【菊池】伊藤さん、ありがとうございました。中山先生、いかがですか?
 
【中山】大変興味深く聞かせていただきました。パーソナルヘルスレコード(PHR)の収集と活用に向けた、様々な可能性を感じました。一つ質問ですが、病院などでの脳波計では複数の電極を頭皮に張りますね。この脳波計は一か所で良いのでしょうか? その場合の場所は側頭葉、あるいは前頭葉のあたりでしょうか?
 
【伊藤】一か所です。額の部分、医学的にはFP1という位置です。複数箇所につけることはできますが、それが使いやすいかどうか。一つの電極でも情報は取得できますので、コストを踏まえ、一つの電極で測定できるデバイスとして提供することにしました。α波は頭の後ろから出ているから取得できないのでは?という質問を時々頂くのですが、実は前方に拡散しているα波もあるんですね。センサーの性能向上で、額の位置からでも検出できるようになりました。検出したデータの正確度が最初に課題になりますが、通常の医療用脳波計を基準として妥当なデータが再現できていることを確認しています。
 
【中山】先ほどストレスのお話がありました。ストレス測定については、コルチゾールやカテコラミンなどいろいろな方法が試されてきましたが、結局、記述式のストレスチェック・シートのようなものを使うしかない。急性期のチェッカーとしてなら、もしかするとこのデバイスは可能性がでてくるかもしれませんね。慢性ストレスには難しいと思いますが。
 
【伊藤】心臓計測用の簡易型のデバイスも提供していますので、脳波と組み合わせることで、より確度の高いストレスチェッカーを実用化できるかなと思います。慢性ストレスは確かに研究課題ですが、そのためにも、どれだけ多くのデータがとれるか、手軽に測ってもらえるか、測るデバイスを広げられるか、それが大事ではないかと思っています。
 
【菊池】心と体が見える機械、黙って妻につけられないだろうか、と思います。妻の精神状態が見えれば、私の態度を毎日変えられますので、けんかもせずに済みそうです。伊藤社長、中山先生、本日はありがとうございました。
 
 
 

脳波センサーの正確な測定によって、また多くのデータの解析によって「人間の感情や心を見ることが出来る」ようになるらしい。ともかく、日本人の平均寿命は世界一であり、多くの先進国が続いてくる。日本は、それらの国々から観られているのである。ただただ認知症や病気でベッドの上だけで長生きさせられても叶わない。認知症のメカニズムが判り、治せるようになれば、また幼いころからの脳障がいを治せるようになるなら、長生きも幸せのうちに入るかもしれない。「冥途の道も金次第」の理通り、遊び、楽しむだけのお金を頂ける仕掛けがあればだが…。