健康おせっかい倶楽部
 
 

西村 周三

(にしむら しゅうぞう)
医療経済研究機構所長
厚生労働省社会保障審議会会長

NEW!

 
 免疫療法など、最新のがん治療法が話題です。これまで治癒率が低かった部位のがんでも、新薬のおかげでかなりの人に効くようになりました。素晴らしい話ですが、それでも効かない人もいるということも現実です。新薬の効果は、投与を始める前にはわからないこともあります。そして効かないと分かってきても、お医者さんによっては、他に治療法がない中では、すぐに投薬を中止することをためらう場合もあります。
 現在、2人に1人ががんに罹り、3人に1人ががんで亡くなっています。さまざまな治療を試みても、期待した成果が得られない時、私たちはそのことにどう向き合えば良いのでしょう?
「マギーズ東京」という組織の取り組みが注目されています。代表の秋山さんはじめ専任の看護師や心理士が、なかなか治らないがん患者さんや家族の方と向き合い、悩み事を聞き、さまざまながんとのつきあい方を見つけて、自分の力をとりもどすお手伝いをしています。もちろん効果がはっきりしない段階でのいろんな不安や悩みにも対処してくれます。
 新薬の効く、効かないに関係なく、不安や悩みを共有できるこうした場こそが必要であり、それが、QOLや実際の延命効果を、良い方向に向かわせることが多いのではないでしょうか?
 
2017年11月号より


 
 フィットネスクラブが、中高年の方にも人気のようですね。結果にコミット、女性専用、何歳でもいつでも。地域の公民館も、健康づくりやダイエット教室が盛んです。
 フィットネスクラブと公民館、続ける人が多いのはどちらでしょう?
 実はまだよく分かりません。今、この比較ができないか検討中です。公民館だけでの研究はたくさんあります。誰とも話さず一人で黙々とやる場合と、友だちと話をしながらやる場合のどちらが長続きするかの研究です。
「○○した方が良いですよ」とだけ言うより、「○○した方が良いですよ、みんなやってますから」と言う方が、確かに「良い」選択が増えます(「ピア効果」といいます)。友だちが出来る仕組みを作ることで、実際、継続率が上がったフィットネスクラブも増えているようです。
 一人でやるよりも、みんなでやる方が続けられそうですか?
 
2017年10月号より

嬉しいことはちょっとずつ、
悔しいことはまとめて

 
 お医者さんの中には、(ご本人はほぼ無意識と思われますが)初診の患者さんに病気のリスクを高めに伝え、(より早く治す方法もあるが)時間をかけて少しずつ治療の成果をあげていく、患者さんには“好評な”先生がいます。なぜ彼の評判は良いのでしょうか?
 行動経済学の研究で、こんな質問があります。
 【質問1】お金を落とした。どちらが悔しいか?
  A 最初に5千円、その後また5千円落とした。
  B 一度に1万円を落とした。
 【質問2】お金を拾った。どちらが嬉しいか?
  A 最初に5千円、その後また5千円拾った。
  B 一度に1万円を拾った。
 合理的な考え方では、AとBの損得は同じ1万円なので、同じと想定されます。しかし実際の回答はこうでした。
 【質問1】80%がA…5千円×2回の方が悔しい。
 【質問2】70%がA…5千円×2回の方が嬉しい。
 多くの人は、合計が同じでも、一度に損する方が何度も損するより悔しくない。一方で、一度だけより少しずつ得する方が嬉しい。悔しいこと(病気のリスク)はまとめて、嬉しいこと(回復)はちょっとずつ経験させてくれる、ある意味“優秀な”お医者さんには、患者さんの多くが惹かれるのかもしれません。
 
2017年9月号より

「社員食堂」は進化する

 
 みなさんの職場に「社員食堂」はありますか?働く人に健康的な食事を提供する。少し前の時代、社員食堂は日本の特徴でした、実は今、欧米企業が社員食堂の充実に積極的です。毎日ハンバーガーで済ませるのではなく、野菜と魚を中心にバランスの良いメニューを提供する、社員の健康づくりに活用しているのです。
 おもしろい研究があります。「社員食堂」のカフェテリアで、最初に野菜がたくさん置かれている場合と肉がたくさん置いてある場合で、どちらが多く取られるか?最初に野菜があると、やっぱり野菜です。ひとつ大事なのは、その野菜がおいしそうに見えるかどうか。おなかが空いているときに「最初に」野菜と出会って、何より「おいしそう」だ。もちろん野菜は健康に良い(はずだ)。
 私たちは、合理的にものごとを考える一方で、とっさに、一瞬の感情で判断をします。2つの特性を知り、工夫してみると、私たちの行動は変わるんですね。
 
2017年8月号より

かかりつけ〇〇のススメ

 
 私は2006年に軽い脳梗塞で入院し、早朝高血圧症の診断を受け、降圧剤を飲む生活を始めました。以後10年、薬局の窓口に行っては「イジワルな?」質問をいろいろし続けています。「薬を飲むのを数日忘れたので、2日分まとめて飲んだほうが良いでしょうか?」「残った薬は引き取ってもらえますか?」
 この10年で薬剤師さんとの会話も変わりました。かつて薬の飲み方説明で終わっていた時代から、「降圧剤は効いてますか?」といった「積極的な」質問を、少しずつですが受けるようになりました。
 優れたホテルマンは、服装や素振りなどからも即座にお客さんを理解し、おなじみになれば、質問や相談などの「対話」を通じて信頼関係を深めます。「対話」によって患者さんの情報を吸収し、診療や処方を工夫する、優れたお医者さんや薬剤師さんも増えています。
 みなさんには、「かかりつけの」お医者さんや薬剤師さんはいますか?
 
2017年7月号より

幸せな働き方

 
「働き方」について今さまざまな議論があります。最近は特に、「短い時間で効果をあげる働き方」に注目が集まっていますね。しかし、ちょっと労働時間ばかりが注目されすぎてはいないでしょうか?
 アメリカなどでは、短い時間で効率的にお金を稼いで自分の時間に使う、こうした考え方は一般的です。一方で日本人の多くは、ここまでが労働でここからは労働ではない、という発想にあまりなれているとはいえない。家に帰っても、割と仕事のことを考えていませんか? 自営業の方々は、家で仕事をしながら、同時にそこは一家団欒の場でもあったりします。
 長時間労働を減らす意味について、「短い時間で効果をあげるため」と考えるよりも、働く時間や場所を柔軟に選択できれば、高齢者や女性の働ける機会が増えるし、将来必要となる能力開発やスキル習得の機会も得られる、そう発想する方が、多くの人が100年を生きる時代には、より幸せになれる気がしませんか?
 
2017年6月号より

「賢い患者」になる秘訣

 
日本では、風邪を引いたり腰痛が続いたりしたときに、特に都市部では、気軽に病院や診療所を訪れます。国民一人あたりの年間平均での受診回数は、アメリカやヨーロッパの5倍から10倍にも達するようです。その代わり、平均で見た、一回の「診療を受ける時間」は非常に短いのです。特に、お医者さんが薬をたくさん処方しても、患者がその内容についてあまり質問などをせずに、黙って処方を受けることが多いようです。それでいて、自分で勝手に判断し、処方された薬を飲まずに残すことが多いことも指摘されています。3分間の診療で、あまり質問もしないで帰ることを繰り返すのと、それほど頻繁に受診しないけれど、受診のたびごとにじっくり医師といろいろな相談をするのとでは、どちらがいいでしょうか?特に最近では、いろいろな疑問をぶつけることができるような、信頼できる医師をじっくりと選び、長い関係を築くといった「賢い選択(Choosing Wisely)をしようという動きが高まっています。
 
2017年5月号より