健康おせっかい倶楽部
 
 

中山 健夫

(なかやま たけお)
京都大学大学院医学研究科
社会健康医学系専攻長
健康情報学分野教授

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 くも膜下出血とは、脳の表面を覆い守っている膜のひとつである「くも膜」の下で出血がおこる重篤な病気です。原因の多くは、脳に血液を供給している動脈にできた脳動脈瘤というこぶが破裂することによります。高血圧の人、喫煙や過度の飲酒の習慣のある人、一親等以内に脳動脈瘤のある人はくも膜下出血の危険性が高まります。
 出血が起こると、典型的には頭を突然バッドで殴られたよう強い痛みを生じます。くも膜下出血の症状はこの突発性と、今まで経験したことのないような頭痛のひどさが特徴的といわれています。ただし場合によっては頭痛が軽い場合や、重篤で意識を失ってしまう場合もあります。
 いちど脳動脈瘤が破裂すると、短期間のうちに再破裂する可能性が高いため、破裂した脳動脈瘤に対して治療が行われます。治療法は主に2種類あり、開頭術(動脈瘤の根本をクリップでとめてしまう)と、血管内治療(血管に細いカテーテルを入れて動脈瘤をコイルで詰める)になります。
 これらの治療を行った後も合併症として、脳血管の異常な収縮や、水頭症などの脳の障がいを生じる可能性があるため、最終的に亡くなられたり重篤な障がいを残されたりする人が半数近くにのぼります。

 日本はCTやMRIといった脳動脈の画像検査に用いられる機器の人口あたりの台数が世界一多く、脳ドックや頭痛の精査などで検査を受ける人も多いと思われます。そのため、自覚症状がない脳動脈瘤が偶然に見つかることもあります。およそ3~5%の人にこうした未破裂脳動脈瘤があるといわれています。
 多くの未破裂動脈瘤は破裂する危険性は低いですが、ひとたび破裂すれば重篤となるため、予防的に開頭術や血管内治療が行われることがあります。どちらも破裂の可能性を大幅に減らすことができますが、治療に際して合併症が全く無いわけではありません。
 年齢や、動脈瘤のサイズや場所、瘤の形などの条件によって破裂のしやすさはある程度予測されますので、症状のない動脈瘤に対して治療を行うのかどうかを決める際には、納得のゆくまで主治医とよく相談して決めることが必要です。
 
 
富成 伸次郎
総合内科専門医・医学博士
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室
 
2018年8月号より


2つの依存
 タバコが止めにくいのは、ニコチン依存と心理的依存のためとわかってきました。タバコを吸い始めると、脳細胞の表面に特殊なニコチンレセプター(ニコチンの受け皿)が形成されはじめます。これがニコチン依存という病気の本体です。さらに、同じ動作を繰り返すことによる習慣化や「仕事で行き詰まったときに吸ったらうまくいった」といった記憶が心理的依存として加わることで、ますます禁煙が困難になっていきます。
 
禁煙にチャレンジ
 禁煙に至る道のりにはいくつもの種類があり、「禁煙外来を受診して禁煙の薬を利用する」「薬局で禁煙の薬を入手する」「インターネットの禁煙支援サイトを利用する」など、いろいろな方法が選べる時代になりました。
 1990年代から開発された禁煙の薬はいずれも、ニコチン切れを軽減して禁煙の開始を助けるもので、日本では「ニコチンパッチ」という貼り薬と「バレニクリン(チャンピックス)」と呼ばれる内服薬、さらに「ニコチンガム」の3種類の薬を用いることができます。どの方法が自分に適するかは、かかりつけ医やかかりつけ薬局で相談できます。
 いったん始めた禁煙をうまく続けるには、周囲からの励ましが重要になります。周囲に禁煙にチャレンジしている人がいれば、ぜひ励ましてあげてください。
 
数字の小さいタバコ
 少しでもタバコの健康影響を減らそうと、パッケージに表示されている数字(タール、ニコチンの含有量)の小さいタバコに替える人がいますが、意識せずとも深く吸ったり、何度も吸ったりと、吸い方が変わってしまううえに、有害物質を吸収しやすくする添加物が加えられていますので、口元では薄まった煙を吸っているつもりでも、肺から吸収する有害性の量は数字の大きいタバコも小さいタバコもさほど変わりません。また少しずつ本数を減らして禁煙しようとする人もいますが、途中でニコチン切れ症状が出て挫折することも多く、 それよりも禁煙の薬を使用してきっぱりと禁煙することをお勧めします。
 
再喫煙を防いで禁煙を続ける
 一旦禁煙していても、再度タバコを吸い始めてしまう人がいます。これを「再喫煙」と呼びます。「3か月も禁煙したのだから、もう大丈夫だろう」とか、「ここまで禁煙したからご褒美の1本」などと軽い気持ちで吸ってしまって、数日後には元の喫煙者に戻ってしまったという人が後を絶ちません。再喫煙を防ぐには「呼吸が楽になった」「声が出やすくなった」「仕事の能率があがった」「集中力が持続するようになった」「家族から誉められた」など、禁煙して出てきたメリットに注意を向けることが重要です。
 
 
高橋 裕子
医師(内科・禁煙科学)特任教授、日本禁煙科学会(JASCS)理事長
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室
 
2018年7月号より



耳の構造と中耳炎
 耳の穴のつきあたりには鼓膜があり、鼓膜の奥にある空間と、その中の構造物をまとめて中耳といいます。中耳は、鼻の奥と耳管という細い管でつながっています。
 中耳炎は、すべての世代で発症しますが、10歳くらいまでの、特に乳幼児のお子さんがかかることが多い病気です。中耳炎にはいくつかの種類がありますが、特に発症する頻度が高いのは、“急性中耳炎”と“滲出(しんしゅつ)性中耳炎”です。

急性中耳炎とは?
 急性中耳炎は“急性に中耳に膿がたまる病気”で、耳痛、発熱、耳だれ(耳の穴から分泌物の出る症状)を伴います。鼻かぜや感冒などのウイルス性上気道炎の後に発症することが多いのですが、ほとんどの急性中耳炎で、鼻やのどの細菌が耳管を通じて、中耳に感染していることがわかっています。そのため、急性中耳炎では重症度に応じて、抗菌薬を投薬して治療します。しかし、薬剤耐性菌を増加させないために、軽症の急性中耳炎では抗菌薬を投与せず、慎重に経過観察することもあります。
 急性中耳炎の予防には、かぜを引いた時に鼻をすすらないこと、そして鼻水が多い場合には、まめに片方ずつゆっくり鼻をかんで鼻の中をなるべくきれいにすることが大切です。お子さんが鼻をかむことができない場合には、専用の鼻水吸引器を使用するのも良いでしょう。また、小児肺炎球菌ワクチンの予防接種による、急性中耳炎の減少と軽症化が期待されています。
 
滲出性中耳炎とは?
 滲出性中耳炎は“中耳の空間に液体が貯留し、耳痛や発熱がない中耳炎”です。滲出性中耳炎では、音を伝える中耳に液体が貯まるために聴力が低下してしまうことがあり、お子さんの日常生活や学習に影響を及ぼす恐れがあります。また、鼓膜に病的な変化が生じることがあり、その場合、癒着性中耳炎や真珠腫性中耳炎など、より高度な治療が必要な中耳炎が発症することもあります。
 原因として最も多いのが、急性中耳炎が十分に治りきらず、滲出性中耳炎に移行する場合です。また、耳管の働きが低下することや鼻すすり癖、アデノイド増殖症や上気道炎、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎など、のどや鼻の病気も滲出性中耳炎に影響します。滲出性中耳炎にならないためには、急性中耳炎を予防すること、鼻すすりを習慣化しないこと、鼻の病気を治療することが大事です。
 滲出性中耳炎は自然に治癒することもありますが、薬物療法や通気療法(鼻から耳に空気を送る治療法)などの保存的治療とともに、経過によっては鼓膜にチューブを挿入する手術を行うこともあります。
 
 
高橋 吾郎
医師(耳鼻咽喉科専門医)
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室
 
2018年6月号より



受動喫煙のリスク
 受動喫煙とは、自分の意思とは関係なくタバコの煙を吸わされてしまうことを指します。受動喫煙にさらされると、がんや脳卒中や心筋梗塞、呼吸疾患だけでなく、精神疾患(うつ病、うつ状態)や認知症などのリスクも高まります。妊婦や赤ちゃんへの影響はさらに重大です。妊娠中の受動喫煙によって、流産や死産、早産などのリスクが高くなり、低体重児の出産も増加します。また出生後には乳幼児突然死症候群(SIDS)、呼吸器症状(せき、たん、息切れなど)・気管支炎、肺炎、中耳炎などが増加します。
 
喫煙室も受動喫煙防止にならない
 受動喫煙は微量でも有害であり、完全に防がなければなりません。ところが煙は非常に拡散しやすく、屋内では1秒に7メートル広がるといわれており、屋外では風に乗って17メートルから25メートルくらいも広がります。換気扇の下で喫煙していても、煙は残ってしまうので受動喫煙の防止にはなりません。喫煙室を設けていても、出入りのドアからタバコの煙が漏れ出しますので、やはり受動喫煙防止になりません。ベランダ喫煙でも、扉の下の隙間から屋内に煙が侵入します。
 
三次喫煙(サードハンドスモーク)
 目の前に喫煙者がいて受動喫煙を受ける「セカンドハンドスモーク」(二次喫煙)だけでなく、目の前に喫煙者がいないにもかかわらず受動喫煙にさらされる「サードハンドスモーク」(三次喫煙)も問題とされるようになってきました。壁やじゅうたんに吸着したタバコの煙は、そのあと長年にわたって蒸散します。これが三次喫煙です。三次喫煙のもうひとつの例が、屋外で喫煙して戻ってくる場合です。肺に残った有害物質は吸い終わってから長い時間にわたり呼気とともに出続けますので、吸い終わってすぐに屋内に入ると受動喫煙を生じることになります。髪の毛や衣服に吸着したタバコの煙も屋内に入ってから拡散しますので、屋内にいる人たちに受動喫煙を及ぼします。
 
 このように、喫煙はご自分の健康だけでなく、周りの大切な人の健康までも奪ってしまう可能性がありますので、禁煙する大切さを考えてみませんか。
 
 
高橋 裕子
医師(内科・禁煙科学)特任教授、日本禁煙科学会(JASCS)理事長
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室
 
2018年6月号より


骨粗しょう症を予防するためには
 骨粗しょう症を予防する方法として、主に、食事療法、運動療法の2つがあります。日々の生活習慣を見直すことは、骨粗しょう症を予防する上で重要です。
 運動療法は、運動して骨に負荷をかけることで、骨を丈夫にする効果が期待できます。また、筋肉を鍛えることでふらつきが少なくなり、転倒を予防することもできます。ここでは、骨粗しょう症を予防するために必要な運動について説明をします。
 
運動で骨が丈夫になる?
 カルシウムが体内で吸収・利用されるには、ビタミンD(魚類、きのこ類)、ビタミンK(納豆、緑黄色野菜)、たんぱく質(肉、魚、卵、乳製品、大豆・大豆製品)など、さまざまな栄養素が必要です。そのためには1日3回、規則正しくバランスのとれた食事が大切です。骨折を心配して、特定の食品やサプリメントだけを摂取することは控えるようにしたほうがよいでしょう。
 
どんな運動をすれば良いの?
 骨を丈夫にするためには、普段から運動する習慣をつけることが大切です。ウォーキング程度の運動がちょうどよいでしょう。しかし、運動によって骨を丈夫にすることはわかっても、なかなか運動を続けることは難しいと思います。わざわざ運動をするのではなく、出かけるときにバス停を2つ分歩く、買い物に行くなど普段の生活から楽しみながら行うことが続けるポイントです。自分に合った負荷でまずは1日30分程度から運動する習慣を身につけていくとよいでしょう。
 また、洗濯物を干したり、部屋の片づけをするなどの家事動作は、ウォーキングと同じくらいの負荷があると言われています。こまめに家事をするなど、生活の中に運動を取り入れ、習慣にすることが大切です。
 上記のことを念頭に置く一方で、もちろん「運動のしすぎ」により骨に過剰な負荷をかけてしまう恐れもあります。心配な方は医師に相談するなど適切な運動を心がけるようにしましょう。
 
 
藤本 修平
理学療法士
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室 研究員
 
2018年5月号より


 

カルシウムだけでいい?
骨粗しょう症の予防にはカルシウムを摂ることが大切、と前編でお話ししました。それではカルシウムを大量に摂取したら、骨密度が増して骨折しにくくなるのでしょうか。答えは、「NO」です。腸管からのカルシウム吸収量は、ある摂取量以上では、いくらとっても変わらないと報告されています。また、カルシウムが体内に吸収されるためには、他の多くの栄養素が必要であることもわかってきました。
 
カルシウムの吸収・利用をたすける栄養素
カルシウムが体内で吸収・利用されるには、ビタミンD(魚類、きのこ類)、ビタミンK(納豆、緑黄色野菜)、たんぱく質(肉、魚、卵、乳製品、大豆・大豆製品)など、さまざまな栄養素が必要です。そのためには1日3回、規則正しくバランスのとれた食事が大切です。骨折を心配して、特定の食品やサプリメントだけを摂取することは控えるようにしたほうがよいでしょう。
 
食事バランスガイドの活用


1日当たりのバランス食の目安として、2005年に厚生労働省と農林水産省が「食事バランスガイド」を決定しました。バランスのとれた食事とは、ある特定の食品をとれば良いのではなく、基本は主食(ごはん、パン、麺類など)、主菜(タンパク質を主としたおかず)と副菜(野菜、きのこ、海藻類)の組みあわせです。併せて果物(例:リンゴ1個)と乳製品(例:牛乳コップ1杯)の摂取を心がければ食事全体のバランスがとれます。骨粗しょう症予防にもぜひ活用してください。なお、性別、年齢、身体活動量によって各項目の摂取数は異なってきます。詳しくは厚生労働省のホームページをご参照ください。
 
*厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html
 
骨密度ピーク後の対策
骨密度は、男女とも加齢によって減少することが確認されています。その減少率は男性よりも女性のほうが大きくなります。特に女性の場合は20歳代にピークを迎えて骨密度が最大となり、以後は徐々に減少し、閉経を迎える50歳ごろから減少は加速します。骨密度減少のスピードを遅くするためには、食事とともに運動にも気を配ることが大切です。生活習慣を改善しなければ骨粗しょう症のリスクが高くなるのです。
 
太田 はるか
管理栄養士 社会健康医学修士(専門職)
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室 研究員
 
2018年5月号より

マダニについて
 人のマダニによる被害は、直接咬まれることによるものと、マダニを媒介とした感染症によるものとの2種類があります。マダニは森林や草むらに生息し、大きさは血を吸っていない状態で3mm~5mm程度。柔らかいところを咬むことが多く、草むらや畑などで服についたマダニがお尻や脇腹まで進んできて咬まれてしまいます。ハイキングや畑仕事の最中に咬まれることが多いのですが、時に痛みがない時もあります。草むらや畑に入った後は、マダニに咬まれてかさぶたができていないか、血を吸って大きくなったマダニがいないか全身を確認することをおすすめしています。
 
どんな症状があるの?
 マダニに咬まれても痛みがなく、気がつかない場合があります。マダニに咬まれた数日後に熱が上がったり、リンパ節が腫れたり、赤いぶつぶつができる、体中が痒いなどの症状が出ることがあります。また、重篤な状態になると、体がむくんだり、呼吸が苦しくなったりします。意識の状態も悪くなる時があります。マダニに咬まれた後に上記のような症状が出た場合は、すみやかに医療機関を受診することをおすすめしています。

マダニによる感染症/原因微生物の種類
 マダニは、ウイルスや細菌など様々な病原微生物を体内に保有しています。中でも日本紅斑熱(こうはんねつ)という特殊な細菌リケッチアによる感染症や、最近では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という特殊ウイルスによる重篤な感染症を起こすことが知られています。命に関わるような重篤な状態になることも時にあるので、注意が必要です。

病気の治療法
 血を吸っているマダニは、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚に残ってしまい化膿する恐れがあるので、慣れていない方は咬まれたままの状態でマダニを処置できる皮膚科や外科など医療機関を受診いただいて構いません。
 もし、マダニが媒介する感染症を発症した場合は、病原微生物に合わせて治療を行います。リケッチアなどの細菌が原因の場合は、抗生物質の点滴と全身管理による治療を行います。また、SFTSの場合はウイルスが原因ですが重症化することもあり、集中治療が必要になります。

予防法
 何よりもマダニに咬まれないことが必要です。マダニが多い森林や草むらに行く際は長袖、長ズボンなど肌の露出が少なくなるように行動してください。虫除けスプレーもお勧めです。また屋外活動後に入浴し、早めにマダニに咬まれたかどうか確認することも重要です。
 
井村 春樹
感染症専門医
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室

2018年4月号より


 

服薬の用法について
 前回、薬を効果的に利用するには、服用する用法、用量、期間を守ることが大切とお話ししました。中でも、用法、つまり薬を飲むタイミングについて、間違った理解をしている場合が多いので、以下で詳しくご紹介します。


 
薬局を活用しよう
 その他にも、薬を服用するにあたっては飲み物や、食べ物によっても薬の効果が弱まったり、強まったりすることがあります。例えば、胸やけを抑える薬を炭酸飲料で飲むと、薬が炭酸を中和するために使われてしまい、効果が弱まってしまいます。また、抗生物質には、牛乳で飲むと牛乳のカルシウムと結合して吸収が悪くなるものもあります。薬は多めの常温の水または白湯で服用するようにしましょう。他にも、薬とサプリメントの飲み合わせなど、薬局で薬をもらう時に気になることがあったら薬剤師さんに聞いておきましょう。

お薬手帳を活用しよう
 みなさんは、お薬手帳を持っていますか? お薬手帳は、自分が使っているお薬を記録する手帳です。薬局でもらえますが、自分のお気に入りのノートを「My お薬手帳」にしてもよいのです。薬局で薬をもらうと、薬剤師さんが手帳にシールを貼ってくれます。シールには薬の名前、用法・用量、日数(何日分の薬か)が書かれているので、もらった薬の服用方法を確認することができます。また、薬をだす薬剤師がお薬手帳の中の記録を確認することで、薬の重複や飲み合わせなどをチェックして副作用が起きるリスクを減らすことができます。過去にかかった病気やアレルギーがでた薬、最近の血液検査の結果や、服用しているサプリメントなどを記録しておくと、薬剤師が薬の服用のアドバイスをする手掛かりとなります。また、お薬手帳は、旅行や災害などの緊急時に、自分がどんな薬を服用しているか、医療関係者に伝えるのに役に立ちます。実際に、東日本大震災時にもお薬手帳が役立ちました。「My お薬手帳」、ぜひ活用してくださいね。

 前後編2回で「お薬の上手な服用」についてお話しました。みなさんがお薬を使用するときの参考になれば幸いです。
 
仙石 多美
薬剤師 博士(社会健康医学)
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室 研究員
 
2018年3月号より


 

骨粗しょう症って?
「手をついただけで手首を骨折した」「敷居につまずいて転倒したら足を骨折した」
みなさんの周りにこのようなご高齢の方がいらっしゃるのでは? そう、これが骨粗しょう症が原因で起こる骨折です。WHO(世界保健機関)では「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」と定義しています。高齢社会になり、珍しくなくなった疾患ですが、予防する方法はあるのでしょうか。
 
骨粗しょう症の原因
骨粗しょう症には原因として考えられる2項目があります。1つめは改善できない項目で、加齢、性※、家族歴、早期閉経などが挙げられます。これらは自分ではどうすることもできないので、受け入れるしかありません。2つめの改善できる項目には、食事や運動、日光浴があります。これらは皆さんの努力次第で変更可能です。つまり生活習慣を変えることが骨粗しょう症の予防につながるのです。
※罹患率の男女比は約1対3で、女性が男性の約3倍です。
 
生活習慣を変える?
まずは、食生活の見直しです。骨といえば、最初に思い浮かぶ栄養素がカルシウム。カルシウムは体重の1-2%を占めています。そのうちの99%が骨と歯に、残りの1%は血液中や細胞内にあります。骨は常に作り変えられ、慢性的に食事によって摂取されるカルシウムが不足すると骨の組織がスカスカ状態になり、骨折しやすくなります。ただ、カルシウムを摂取しても、急に骨の強度が増すわけではありません。できるだけ若いうちからコツコツ摂ることが大切です。
 
カルシウムだけを摂取すればいい?
栄養相談では高齢者の女性から、次のように尋ねられることがしばしばあります。
「カルシウムといえば乳製品。骨粗しょう症予防のためにヨーグルトを毎日500gと牛乳を毎日800ml(コップ約4杯)飲んでいるので、これで骨折しませんよね?」と。
確かにこれだけ乳製品を摂ればカルシウム摂取量は1,500mgとなり、成人女性一日のカルシウム食事摂取基準の2倍以上となります。しかし、このようなカルシウムの摂り方で良いのでしょうか。答えは次号にお届けします。お楽しみに。
 
太田 はるか
管理栄養士 社会健康医学修士(専門職)
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室 研究員
 
2018年2月号より


 

お薬、余っていませんか?
 みなさんのご自宅に、飲み忘れたり、途中で飲むのを止めてしまったりして余っている薬はありませんか? このように溜まってしまったお薬を「残薬」といいます。この「残薬」、少なくとも年間29億円にもなっていることをご存知ですか? 医療費抑制が問題となっている昨今、もったいない話ですよね。では、なぜ残薬が出てしまうのでしょうか?残薬について多かった理由は、多い順番から「飲み忘れ」、次に「自分で判断して飲むのをやめた」、「新たに別の医薬品が処方された」が同数、そして「飲む量や回数を間違っていた」でした。でも、薬って飲み忘れることもありますよね。それに、本当に飲み続けなければならないのでしょうか?
 
きちんと服用する理由は?
 みなさんには次のような経験はありませんか?
 Aさんは風邪をひいて喉が腫れて痛みます。お医者さんで3日分の抗生物質を処方されましたが、次の日に痛みがなくなったので飲むのを止めました。まってください。症状がなくなったからといって、服用をやめてはいけません。薬で数は減りましたが、生き残った細菌は増殖するチャンスをうかがっています。再び増えはじめて以前より重い症状になることがあります。
 Bさんは高血圧の薬を飲んでいます。最近の週刊誌に薬を飲み続けるのはよくないようなことが書かれていたので、飲むのをやめました。まってください。血圧が高いまま、急に服用をやめてしまうと血圧が反動的に上がってしまって脳出血をおこしてしまうこともあります。減塩や運動などの生活習慣を改善することで血圧が下がれば、服用をやめることもできます。薬のやめどきはお医者さんと相談して決めましょう。
 Cさんは夏バテで、体がだるくて食欲がありません。漢方薬を処方され、「食前」に飲むように言われたので、食事の直前に服用しています。まってください。「食前」は食事の30分くらい前のことです。漢方薬は薬の吸収を高めるために、 胃に食物が入っていない状態で服用することが多いのです。
 薬を効果的に利用するには、処方された薬を、次の3点について守って服用することが大切です。
 1.用法(例:1日1回 朝食後)
 2.用量(例:1回1錠)
 3.期間(例:28日分)
 飲み忘れたら次の服用までの時間を考慮して服用します。一般的には、1日3回の薬は4時間以上、2回の薬は6時間以上、1回の薬は8時間以上開けて服用します。ただし、服用時間が決められている薬もあるので、飲み忘れた時の対応を薬剤師さんに聞いておくとよいですね。
 次回は間違えられやすい服薬の用法について、より詳しくお伝えします。また、薬局とお薬手帳についてもお話したいと思います。
 
仙石 多美
薬剤師 博士(社会健康医学)
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授研究室 研究員
 
2018年2月号より

最後の病気

 
 病院の診療記録で冬に多くなるのが、脳卒中や心筋梗塞だそうです。寒くなると多くの方は血圧があがります。なるほどと思います。
 がん、心臓病、脳卒中、「最後の病気」を選べるとしたらみなさんどれを選びますか? お医者さんにこの質問をすると、がんと答える方が多いようです。脳卒中が一番嫌がられます。仕事柄、後遺症や介護、認知症の可能性を考えるからでしょうか。
 私自身も、選べるならやはりがんを選ぶと思います。治療技術の進歩もさることながら、この10年、緩和ケアの世界は着実に進んでいます。逆に一番なりたくないのは心臓病です。ピンピン生きて迷惑をかけずにコロリと亡くなるイメージがありますが、私自身は、まだ50代だからかも知れませんが、その「コロリ」がどうも嫌です。病気になって死ぬまでに、できれば少し時間が欲しいなと思います。身辺を整理するのに最後の時間がほしい。この数年で、私の友人や仲間も心臓病で亡くなりました。
 突然の死は、本人、家族にとって、やはり無念だろうと思うのです。
 
2018年1月号より

「ブロード・ストリート事件」の教訓

 
 1854年、夏のロンドンで、激しい下痢をともなう病気が大流行し、多数の住民が亡くなりました。原因究明にあたった公衆衛生医、ジョン・スノウ。彼の行った調査が画期的です。まず患者が発生した場所を調べ上げ、地図上に記録し続けていくのです。地道で緻密な調査の結果、ロンドン中で発生していたと思っていたこの病気が、ブロード・ストリートにあるひとつの井戸の周辺に患者が集中している事実が浮かび上がってきたのです。スノウはここが感染源と判断、住民に飲用を禁止したところ、患者は激減、感染は終息に向かいました。この事件の原因として「コレラ菌」をロベルト・コッホが発見するのは、スノウが問題を解決した29年後のことです。
 この「ブロード・ストリート事件」は、大きな教訓を残しました。緊急の意思決定には、生物学的な原因やメカニズムの究明などの「完全な」情報は必ずしも必要ではない。スノウは病気の数を丁寧に数えることで、井戸水の飲用禁止という緊急の対策を見出しました。「時、場所、人」の三要素で病気の原因の手がかりをつかむ手法(記述疫学)によって多くの命を救ったのです。
 この時から、「人間を守る」ための科学、「疫学」が始まりました。
 
2017年12月号より

怖い薬…?

 
 2008年、「酸化マグネシウム」を服用して2人が亡くなったというニュースが一斉に報道されました。当時、便秘薬や胃薬として広く使われていましたので、報道を受けて医療機関への問い合わせが殺到しました。
 情報元は、厚生労働省による副作用の調査結果です。調査期間は3年4ヶ月。のべ1億5000万人、年間で4500万人が服用していたと推定されています。広く使われている薬で2人死亡という事実は衝撃的です。ただしその発生確率はどうなのか? 0.0000013…%? 死亡原因を調べてみると、介護を受けられていた70代と90代の方々で、腎臓の機能が低下。通常は尿として排泄されるマグネシウムが体に溜まり、心臓の不整脈を起こしたようです。腎臓に問題がなければ安全で有効な薬です。
 副作用のリスクを伝えることはとても大事です。しかし、「リスクコミュニケーション」のしかたによっては、有効性のある治療が捨てられてしまう恐れもあるんですね。
 
2017年11月号より

生存率95%と死亡率5%

 
 「手術すれば95%生きられる」。 肺がんになって、手術をするか、放射線治療をするか、の選択を迫られたとします。
 最初にこう説明された場合、みなさんはどちらを選びますか? アメリカで、1982年に行われた医学研究の事例では、医師も患者さんも8割が「手術」を選択しました。「手術したら5%死ぬ」。逆に、こう説明された場合はどうだったのか? 手術を選択した医師と患者の数は、半減しました。
 生存率95%と死亡率5%は、同じ事実を表しているはずですが、どう伝えるかで、その情報を受け取る人の判断が変わってしまいます。私たちは、生きる「利益」よりも、死ぬ「損失」に敏感に反応します。どちらを選びますか? と問われた時に、「利益」よりも「損失」に引っぱられて、意志決定する人の方が多いんですね。
 
2017年10月号より

運動するから 風邪をひかない…?

 
 風邪をひく頻度と運動量について、アメリカの大学で男女641名にインタビューした調査結果があります。
◯あなたはこの3か月間で
 どれくらい風邪をひきましたか?
◯あなたはこの3か月間で
 どれくらい運動しましたか?
 男性の回答を集計してみると、「中程度の運動を日に3時間する人は、1時間しか運動しない人よりも、風邪をひく確率が35%低い」という結果が出ました。では、「多く運動したから、風邪をひかなかった」と言えるでしょうか? 実はこの調査だけではわかりません。同じ時期の運動と風邪の頻度を調べるだけでは、「風邪をひかなかったから、多く運動できた」という、逆の因果関係も否定できないんですね。
 健康状態と要因の、ある一時点の関係を調べる手法を「横断研究」と言います。この方法だけでは、時間的な前後関係が不明なので、どちらが「原因」であり「結果」なのかがわかりません。因果関係を推測するには、前後関係を追跡する「縦断研究」という手法も必要です。世論調査など多くの社会調査では横断研究の手法が使われます。その結論に「因果の逆転」はないか、少し疑ってみてはいかがでしょう。
 
2017年9月号より

「先生は名医です」、か?

 
 多くのお医者さんは、自分が“プチ”名医だと(ひそかに)自負しています(私もそうでした)。「患者さんが『先生のおかげで良くなりました、先生は名医です』と言ってくれる」と。しかし、どうでしょう? 何か落とし穴がありそうです。
 一般的に、治療がうまくいけば患者さんは受診を続けますが、そうでなければ何もいわずに転院するでしょう。ちょっと皮肉に言えば、転院した人の方が早く良くなることもあります。うまくいかなかった患者さんも含めて、その医者と他の医者を比べてみないと、実は、その先生の治療の、全体での有効性は分かりません。それを明らかにするには、「初診の患者さんを登録して追跡調査を行う」ことが必要です。初診以降、何人転院して、何人残り、そのうち何人良くなったのか、どんな人が途中からいなくなったのか。その方々の特色が正確に分かれば、他との比較も可能です。
 比較して初めて、その治療が有効だったのか、その先生が「“プチ”名医(?)」なのか、が分かるんですね。
 
2017年8月号より

ビッグデータから見える「しっぽ」

 
 医療・健康のデータ活用で最近注目されているのが、「レセプト(診療報酬明細書)」、病院の会計で受け取る、「領収書」です。レセプトには、どんな病気で、どんな診療や治療が行われたか、どんな薬が処方されたかなど、いろいろな情報が含まれています。
 昨年私たちは、124万人の患者さんのレセプト1か月分を使い、同じ病気で複数の病院から薬を処方された、いわゆる重複受診の調査を行いました。たとえば、精神科で処方される抗精神病薬の場合、1か所の病院で薬を処方された患者さんが1万9277人、2か所が551人、3か所が22人、そして、10か所以上(1か月間にです!)から処方された方が2人いました。
 ビッグデータを分析すると、少ないデータでは見えない「一般的な傾向」が分かります。同時に、“しっぽ(tail)”のようなはずれ値、たとえば10万人、100万人に1人しか発生しない「まれな」もの、「特殊な個」も見えてくるんですね。
 
2017年7月号より

あなたが欲しい情報はなんでしょう?

 
 医療や健康の情報には「有用性」という考え方があります。情報の「有用性」を判断するときに大事なことのひとつが「適切性」。30歳の乳がんの方にとって、70歳の患者さんの治療情報は「適切性」が低いわけです。
 たとえばあなたの脳に動脈瘤があることが分かりました。破裂すると命の危険があるので予防的に手術することもあると医者から言われました。どうすべきか判断するとしたら、どんな情報を欲しいと思われますか? 実際の患者さんにインタビューしてみると、3つの情報が必要とされていました。まず「破裂のリスク(疫学研究で年平均0・95%であることが分かりました)と「血圧を上げない生活方法」。3つめは「他の人たちがどういう選択をしたか」。大事な決定をする時に、同じような状況にある人がどのように考えるか? は重要な情報です。
 他の人たちの情報があなたにとって意味を持つように、あなたの情報も誰かにとって価値ある情報となります。情報を持ち寄ることで、「有用性」の裾野も広がるんですね。
 
2017年6月号より

5つの選択肢

 
 レストランで、5つのコースから料理を選ぶのは楽しいですね。「好き嫌い」「今の気分」など、それで私たちはコースを選択できます。ではあなたが、前立腺がんや乳がんと診断され、医者から「(1)手術(2)抗がん剤(3)放射線療法(4)ホルモン治療、(5)経過観察(何もしない)、どれを選びますか?」と言われたらどうでしょう?医療の場で「選択肢が多い」ことは、有効な治療法の決定が難しい状況を意味します。こうした場面で増えている取り組みが、「共有意思決定(Shared Decision Making)」です。5つの治療方法の有効性とリスク、そして患者さんの希望や価値観、医者と患者さんが情報を共有し、リスクがあっても強めの薬を使うか、負担の少ない治療を優先するか、大事にするのは少しでも長く生きることか、それともQOLか、目指すゴールを「双方向で共有する」。心が弱っている患者さんにとって、先の見えない状況に一人で置かれるのはつらいことでしょう。だからこそ、実現可能で受け入れられるゴールを医療者と共に探す、「共有意思決定」が大事なんですね。
 
2017年5月号より