健康おせっかい倶楽部
 
 

森谷 敏夫

(もりたに としお)
京都大学名誉教授
京都産業大学 中京大学客員教授

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生活トレーニングのススメ

 
 面白いことに、人間はテコで動いています。たとえば前屈した時、背中の筋肉に何十倍と力がかかります。そのせいで、日ごろから動いていないと、ぎっくり腰なんかが起こる。筋肉は普段の動きで鍛えられるんですよ。何でもいいから持ち上げたり移動させたりすることを頻繁にやると、筋肉に対して刺激になる。極端なことを言えば、無駄に遠くに物を置いといて、それを取りに行くだけでトレーニングになるんです。
 己の身体のダンベルは何十㎏もあるし、スクワットだと上半身30㎏とか40㎏の物体を持ち上げていることになる。スクワットが嫌だったら、頻繁に立ったり座ったりして日常の生活をする。掃除機を使わずに、たまには床を拭き掃除すればいいわけですよ。そのようなニートを増やしていけば、痩せられます!
 普段の生活でも、トレーニングしようとすれば、できないことはないんですよ。
 
2017年11月号より

プヨプヨの理由

 
 糖質をとらずに、スポーツをした場合どうなるか。一気に筋肉がなくなるんです。
 たとえば、ちょっと太り気味な選手に減量させるわけですよ。筋肉が一緒だとすれば理論的にはそのほうが速く走れるから。ところが、速くならない。何故なら糖質やタンパク質制限するような減量をして、体重は落ちるけど筋肉も一緒になくなっていくから。そういう時、タンパク質だけとってもダメなんです。筋トレをやって、筋肉がタンパクを欲しがるような状況を作ったうえでタンパク質を減らさず、総エネルギー摂取量を減らすと、筋肉は維持できる。体重1㎏当たり2.4gのタンパク質を取って、もっとしっかり筋トレをやると、筋肉が1㎏くらい増えます。
 これは、ふつうの人のダイエットでも言えることで、痩せるのはいいけれど、筋肉がゲソっと落ちて代謝も落ちるから、普通の食事に戻るとまたグッと太るわけです。筋肉はどんどん削げ落ちていく。でも運動しないから基本的に体脂肪が残る。すると、顎がたるんだ、寸胴足のプヨプヨした体になるというわけです。
 
2017年10月号より

ゆっくり歩いても、はやく走っても

 
 同じ距離を、ゆっくり歩くのと、はやく走るのとでは、どちらが痩せやすいのか。
 物理的に60㎏の物体(60㎏の体重の人)を1㎞動かすとして、走ったら5分で、歩くと15分かかるとする。走ったら早く着きますし、歩いたら長い間動いてエネルギーを消費します。
 エネルギーが使われたら、筋肉では熱が出ます。エネルギーって熱いんですよ。使ったエネルギーの25%が理想的に身体を動かすことに使われますが、残りの75%は全部熱になって熱くなる。ところが、その筋肉の温度があまりに高くなって身体全体の温度が上がると、脳がうまく機能しなくなるので、Oh NO!とばかりに発汗する。何故汗をかくかと言うと、汗を出して空気に触れた時に気化して身体の熱を逃がすためです。
 このように、走れば短時間で多くのエネルギーを使うので汗をかきますが、1㎞を歩いても走っても、トータルで使ったエネルギーの量は一緒なんですよ。
 
2017年9月号より

自分のダンベルを動かせ

 
 先日教えている学生から、こんな質問を受けて驚きました。
「背中のこの脂肪だけ取りたいんですよ」って。
 ご存じのとおり脂肪は全身に分布していますから、こんな運動をすればここの脂肪だけ取れる、なんてことはありません。そのように伝えると「え? そうなんですか?」と聞き返されましたよ。
 脂肪を取るとなると、ちょっとしたダンベルを持つぐらいでは消費エネルギーは少ないので、もっと多く消費できる良い方法があります。仮に、あなたの体重が60kgだったら、それはあなたが持ってるダンベルより、あなたのほうがずっと重いでしょう? 自分のダンベルを動かせって。足の筋肉は大きくて、それほど疲れないものだから、歩いたりちょこまか動いたりすることはあまり運動にならないとみなさん錯覚するんですよ。けれど、実はこのほうが何十倍もエネルギーを使うんです。そういう基本的なところをぜひ理解していただきたいと思います。
 
2017年8月号より

運動する喜び

 
 私の研究室に来た社会人の学生の論文のテーマが「ランナーズハイ」。アメリカのスポーツ医学会が推奨している運動強度レベルにもっていくのに、一般のまったく運動をしていない京大生を使ってやってみたところ、3ヶ月くらいかかりました。毎回、脳波やβ−エンドルフィン(運動後の爽快感や精神的ストレスの解消に大きく貢献する物質)をはかるんですが、運動である程度の強度をこなさないと出てこない。けれど、体力をつけて必要十分な運動ができるところまでいくと、この報酬系の物質が出てきて楽しくなるんです。
 山登りも最初はつらいけれど、それを一度クリアするとすごく快感になる。高齢者でも、ゆっくり歩いて登って、休みながらでもよいので進んでいけます。景色が変わって動きや刺激にバリエーションがあり、自律神経が活性化します。同じペースで平地を歩いたり、ジョギングしたりするより、ずっといいですよ。ただし翌日、筋肉痛になりますけどね。
 
2017年7月号より

生活習慣病になるということ

 
 生活習慣病になる人は、知識のない人。それが僕の持論です。
 以前、ある社長がタンパク質だけ食べて炭水化物を抜くとやせたので、従業員にも勧めたら皆やせたという記事がありました。確かに、体重だけは減るでしょう。それに一応タンパク質は摂っていて、炭水化物がひどく不足したら糖新生して自分の筋肉まで減らさないでしょうが、はたしてそれで良いのでしょうか? 炭水化物をごっそり抜いたら大変、意欲が湧きません。脳は、タンパク質だけでなくケトン体がエネルギーになるので、中鎖脂肪酸を含むものを食べれば良いことになりますが、脳だけで400キロカロリー要るから、全部摂るとすればかなりの量が必要です。安静でも50%は糖質を基礎代謝として使っているので、それを炭水化物以外で摂ろうとしたら、どれだけ脂を食べなければならないか!
 僕は栄養や運動のことをよく知っていて、実践したらどうなるかわかっています。だから僕は、生活習慣病にはならないのです。
 
2017年6月号より

自然に枯れたい

 
 僕は老衰で死にたいと思っています。自然に枯れたい。
 老衰で死ねる人は、日本で2%です。
 102歳で亡くなった医師の方が「医者は病で死ぬなかれ」とおっしゃった。亡くなる2日前まで、運動も栄養もきっちり実践され、最後までタンパクをしっかり摂っておられました。
 
 元気なとき、人は豪語するものです。
 「タバコをやめるなら早死にしたほうがいい」とか「ステーキ喰って太って死んでも本望」とか。でもそれで、肺がんや大腸がんになったとたん怖くなってしまう。怖がるぐらいならやめなさい。タバコ1日100本吸って死なない人もいれば、全く吸わないのに肺がんで死ぬ人もいる。けれど、いっぱい吸う人のほうが死の確率が圧倒的に高いんですから。
 
 僕は学者のはしくれなので、体に良いことは勉強して実践したい。
 年をとるのは辛いけれど、こればかりは普遍的に起こることなので、健康を維持して、人生のカウントダウンを謳歌したいと思っています。
 
2017年5月号より